互いに実家には頼ることができない中、貧しくも幸せな家庭を築いてきた千世の両親。

千世も幼少期からこれといって贅沢をさせてもらった覚えはないが、両親からの愛情を一身に受けて育った。


しかし両親を亡くし、千世はひとりぼっちに。


不幸な生い立ちではあるが、調べられてもとくにこれといった不都合なことはないと千世は確信していた。


貞夫の部屋を出て、思わず声を出して喜びたくなるのをなんとか我慢する千世と正彦。

2人は、その場で静かに抱きしめ合ったのだった。



――それから、10日ほどが過ぎたころ。


貞夫の部屋にくるようにと呼ばれた千世と正彦。

2人はあれからさらに気持ちが高まり、婚約できる日を楽しみにしていた。


「失礼します」

「失礼いたします」


貞夫の部屋へと入る正彦と千世。