そこで、菊丸の話をした。

菊丸という名の親切な青年に助けてもらい、おぶってくれたおかげだと。


それを聞いて、少し考え込む紫雨。


後日、千世はなぜかお守りを手渡された。


「これを肌見放さず持っているんだ、絶対に」


千世は不思議に思いながらも、紫雨からお守りを受け取る。


それからは、なにもない平凡な日々が続いた。

けれど、紫雨と千世の毎晩の行いは続いている。


麗姫の呪いでいつかは死ぬ。

そんな恐怖は常に付きまとってはいるが、紫雨がこうして血を吸うこの時だけは、千世は穏やかな気持ちでいられるのだった。



* * *



千世が叢雲家へきて1ヶ月ほどがたったころ――。


「それでは、行ってまいります」

「お気をつけていってらっしゃいませ」


使用人に見送られながら、屋敷の門をくぐる紫雨と千世。