「…はい。両親は、わたしが１６のときに事故で亡くなりましたから…」


辰之助と秀美は、麗姫の呪いのこと、それにより紫雨と婚姻関係を結んだことを千世に伝える前に亡くなってしまったのだった。


そうして千世は、なにも知らぬまま今日まで過ごしてきた。


「いくらたっても嫁にこないとは思っていたが…。そういうことだったのか」


紫雨も性格上、次第に大庭家の文のことは忘れてしまい、千世が離縁状を差し出しにきて名乗ったときも、すぐにあの文の娘だということには気づかなかった。


「たしかにお前を初めて見たとき、…思わず息を呑んだ。素朴だが品があり、なぜか目を引きつける」


紫雨が初めて千世を目にしたとき、一瞬はっと驚いたのは、千世の飾らない美しさに思わず見惚れてしまっていたからだった。


「たしかに、お前は麗姫には持ち合わせていない美しさを秘めているな」