「あの麗姫が目をつけたという女がどのようなものかが気になってな。同封されていた婚姻状に名前を書いたというわけだ」


こうして、千世が15歳のときの日付で紫雨と婚姻関係が結ばれることとなった。


紫雨はその後、叢雲家の決まりとして多額の結納金を大庭家へと送った。

しかし、辰之助と秀美は『このようなものを受け取るわけにはいかない』と一切手をつけることなく紫雨に返したのだった。


『この婚姻の際に、相手から多額の結納金を受け取っていることがわかった。おそらくは、金に目がくらんでお前の名前を勝手に売ったのだろう』


貞夫はああ言っていたが、真実は違った。


「その後の文には、千世が18歳になるときに嫁がせると書いてたあった。それまでに、事の経緯をすべて話すと。…聞かされていなかったのか?」