「しかし、以前も毎晩毎晩――」

「これは治療。お前を救うためのな」

「…治療?」


予想もしていなかった紫雨の言葉に、千世は目を丸くする。


“治療”――とは。

これまで、大きなケガや病気もしたことがないというのに。


困惑する千世に、紫雨は語った。


それこそが、千世の親が黙って紫雨と婚姻関係を結ばせた理由であった。



* * *



――さかのぼること4年前。


紫雨のもとに、一通の文が届いた。


送り主の名は、大庭辰之助(たつのすけ)秀美(ひでみ)

千世の両親からであった。


文には、15歳になる娘の千世と婚姻関係を結んでほしいと書かれてあった。

千世の名前が記載された婚姻状も同封されて。


何人もの人間の女と政略結婚として婚姻状を交わしてきた紫雨。