その無償のやさしさが、渇いていた千世の心を潤していく。


「千世、先に風呂へ入ってこい。上がったら、少し話をしよう」


そう言って、微笑む紫雨。


不破家から連れ戻されてから、紫雨の印象がずいぶんと変わった。


あのあと、紫雨は千世が足にケガを追っていることにすぐに気づいた。

千世は紫雨の妖術でケガを治してもらい、2人は雨宿りのため近くの宿に立ち寄った。


その後、半月ほどかかる叢雲家までの道のりも、紫雨が千世をおぶったことで数日で帰ることができた。


とても人間では登れないような崖――。

本来ならば半日近くかけてまわり道を行くはずが、鬼の紫雨であればそんな崖も脚力だけで飛ぶように登ってしまう。


千世をおぶっていても関係ない。


そのおかげで、こんなにも早く紫雨の屋敷に着いたのだった。