これで正彦と結婚できると思い、正彦の反応を楽しみに待つ千世。


しかし、正彦の表情は硬かった。


「千世、これは――」

「正彦さん!」


そのとき、屋敷のほうから正彦を呼ぶ声が聞こえた。

はっとしてそちらへ顔を向ける正彦。


「…千世!ひとまず、こっちへ隠れてくれ…!」


そう言って、正彦は千世を茂みの中へと追いやる。

わけもわからず、千世はひとまず言われたとおりに茂みに身を隠す。


不破家の屋敷の門を開けて出てきたのは、長くて美しい髪が特徴的なかわいらしい女性だった。

初めて見るその女性に、きょとんとしながら茂みからのぞく千世。


「…春子(はるこ)さん!こんなところまできて…。具合が悪いなら寝ていないと――」

「聞いてください、正彦さん!今、お医者様に診ていただいたら…。わたくし、どうやら…身ごもっているようなのです!」