「はい。任せてください」


この山道に慣れているのだろうか、菊丸は飛ぶように駆け上がっては駆け下りていく。

千世をおぶっているというのに、驚くほど身軽だ。



そうして、次の日には大きな川のそばまでやってきていた。


この川を船で渡った先に、不破家の屋敷がある。


「なにからなにまで、…本当にありがとうございました。もしまたいつか会うことがありましたら、ぜひともお礼を」

「それじゃあ、そのときがくるのを心待ちにしています。それよりも、ボクのことは気にせず行ってください。久しぶりの実家ですよね?」

「あ…、はい」


菊丸には、里帰りの途中だと伝えてある。

千世は、不破家が自分の帰るべき家だと思っているから。


渡し船に乗った千世を手を振って見送る菊丸。


「“またいつか会うことがあったら”…か。その日はそう遠くないですよ、千世さん。それに…、ちゃんとお礼もしてもらいますからね」