陰の鬼は夜に妖力が高まり、闇夜にまぎれて人を襲うと言われている。

火が苦手とされているため、焚き火がある以上はこの場に無闇やたらには近づいてこないはず。


「助けた身としては、君を放ってはおけないよ。とにかく今日はここで休んで、夜が明けたら出るといいよ」


千世は唇を噛む。


しかし菊丸の言うとおりで、ただでさえ足元の悪い山道だというのに灯りもなしに進むのは危険。

それに、この足では満足に歩くこともできない。


「…わかりました。それでは、ひとまず今夜はここでご一緒させていただきます」


屋敷を出てから歩きづめだったからだろうか――。

千世は心地よい焚き火の音を聞きながら、すぐに寝入ってしまった。



翌朝。


少しは足がよくなっていればと思ったが、立ち上がることはできても歩くと痛みが走った。