菊丸は灰茶色の短髪で、笑顔が素敵な好青年。

初対面ではあるが、千世はすぐに警戒心が解けた。


しかし、辺りはすっかり暗くなっており、気絶してからだいぶ時間がたっている。

追ってくるかもしれない紫雨のことを考えると、千世はこんなところで休んでいる場合ではなかった。


「助けていただき、ありがとうございます。ですが、先を急いでいるのでこれで――」


と言って立ち上がった瞬間、千世の足に鋭い痛みが走る。


「……っ……!!」


崩れるようにして尻もちをついて足を見ると、そこには包帯が巻かれていた。


「出血はそれほどではなかったが、ひどい擦り傷だった。足首は捻挫もしているようだ。そんな足では、今夜は到底歩けそうにない」

「しかし…」

「それに、もう夜も遅い。今から女性が1人で山道を歩くなんて危険すぎる。また足場を踏み外すかもしれないし、もしかしたら鬼に遭遇するかもしれない」