紫雨がいない屋敷は、思ったよりも動きやすかった。


あっという間に出ていく支度を整えると、千世はだれもいないことを確認して、そっと叢雲家の門から外へと出ていった。


「…短い間でしたが、お世話になりました」


ほうきを門に立てかけ、律儀にもそうつぶやき頭を下げて。


久々に屋敷の外へ出た千世。


ようやく自由になれた。

千世はそんな気がした。


しかし、いつ千世が屋敷にいないとわかって使用人が探しにくるかもわからない。

千世は逃げるように、叢雲家をあとにした。


使用人から紫雨に話が伝わり、あとを追われてもすぐには追いつかれないように、少しでも先へ先へ――。


千世は行き同様に、最低限の休憩しか取らず先を急いだ。


そうして、叢雲家の屋敷を出て3日が過ぎたとき。


地元の人間に、ここを通ったほうが近道だと言われて入った山。