本当なら、今すぐにでも正彦のもとへ向かいたい。

きっと帰りを持っているはず。


しかし紫雨は、千世の姿が見当たらないとすぐに屋敷中を探し、隙をついて逃げ出すようなことはできなかった。

それにもし逃げ出せたとしても、その後万が一見つかるようなことがあれば、――なにをされるかわからない。


それこそ、取って食われて命を奪われるようなことがあれば、正彦との結婚のためにここへきた意味がなくなってしまう。


今のところ、紫雨はある1つのことを除いては千世に手は出していない。

初対面のときの無気力な態度から一変、千世を大切にしようとしていることは伝わってくる。


鬼といってもこんなにやさしいものかと日々驚かされる千世だったが、毎夜毎夜の紫雨とのある行いだけが未だにどうしても慣れることができなかった。