千世はというと、痺れる足でなんとか立ち上がろうとしている。


「紫雨の屋敷が人間臭くなるじゃない。さっさと出ていきなさいよ！」


そんな言葉が聞こえた瞬間、千世の右頬をなにかがかすめる。

と思ったら、一筋の血が頬を伝う。


「もたもたしてたら、次はその首を切り裂くわよ」


紫雨の左隣にいた鬼の女が憎たらしく微笑む。


千世は一瞬なにが起こったのかわからなかったが、千世に狙いを定めるようにして手を向ける鬼の女を見て、今のが鬼の妖術だと理解した。

あの鬼の女がかまいたちを起こし、離れていながら千世の頬を切り裂いたのだ。


「ほらほら〜！早く出ていきなさいよ〜」


鬼の女はケラケラと笑いながら、かまいたちを飛ばし千世をもてあそぶ。

先ほどの発言は冗談で、致命傷になるような場所はあえて狙ってはいないが、千世の腕や膝の着物を鋭い風がかすめていく。