こわばっていた表情がゆるみ、わずかに笑みが浮かぶ。


「そんなことを言いに、わざわざきたのか。なんだ?好きな男でもできたか?」


――『はい』。


そう言いたかったが、それを口にしてしまったら少なくとも紫雨の気に障ると思い、千世は言葉を飲み込む。


「隠さずとも、お前のさっきの顔を見たらわかる」


しかし紫雨にはお見通しのようで、軽く鼻で笑われる。

顔を赤らめ、うつむく千世。


「あ…あの、できればこの離縁状に…一筆いただきたいのですが…」


そう言って、千世は懐から離縁状を取り出した。

離縁を求めるその紙には、すでに千世の名前が書かれていた。


おずおずと近づいてきた千世から離縁状を受け取る紫雨。


「それにしても律儀なやつだな。直接離縁を申し出にきた者は、お前が初めてだ。だが、こんなものなくたって、婚姻、離縁しているやつらなんてごまんといるぞ」