そうすれば、離縁状を書くことにも快諾してくれるであろうと。


「…お初にお目にかかります。大庭千世と申します」


とはいっても、真面目な性格の千世。

初めて会った夫にも立場はわきまえている。


下手をしたら、生き血を吸われて殺されるかもしれない。

そんな恐怖心も拭えず、千世は丁寧に挨拶をする。


紫雨は、頭を下げる千世に視線を落とす。


「…で、人間の妻がなにしにここへきた?」


叢雲家と関係を持とうと名前貸しだけで婚姻状を書いた人間の娘たちは大勢いるようで、紫雨はその1人1人をいちいち覚えているわけではなかった。

紫雨にとっても千世は戸籍上の妻というだけで、とくに思い入れもなにも持ち合わせてはいない。


「は…はい。突然お伺いして、このようなことをお伝えするのは大変不躾とは存じますが――」