「妻…?お前が?」


紫雨は首をかしげる。

そして、気だるげにため息をつく。


「…ああ、そうか。人間の妻か」


それを聞いて、紫雨の周りにいる女たちからはクスクスと笑い声がもれる。


「これが…紫雨の妻ぁ?」

「それにしても、どうしてあんなに汚いの?人間の女って、みんなああなの?」


千世は休むことを惜しんでここへ向かっていたため、着物には所々に泥跳ねの汚れが。

足袋に関しては、屋敷に上がることすら申し訳ないくらいに泥だらけで、親指には穴まで空いていた。


よそ行きの着物に着替えられたらよかったが、そもそもそんな着物は使用人の身分である千世には高価すぎて買うこともできない。

それに、千世はこの格好のままでいいとも思っている。


なぜなら、こんなみすぼらしい女、紫雨はきっと妻とも認めたくないはず。