――不破(ふわ)家屋敷。


千世(ちせ)!廊下の掃除が終わったら、次は旦那様の部屋よ!」

「…はい!」


使用人頭からの指示を受け屋敷中の掃除を行うのは、この不破家に使用人として仕える19歳になる少女。

名は、大庭(おおば)千世。


長い髪をお団子のようにして1つにまとめ、あずき色の不破家使用人の着物をたすき掛けした姿で家事をそつなくこなす。


16歳のときに両親を事故で亡くした千世は、ほとんど繋がりもないような遠い遠い親戚であるこの不破家に使用人として拾われることに。

それから3年、使用人頭や他の使用人にいびられることや人一倍こき使われることはあっても、文句ひとつこぼさずに真面目に仕事をしていた。


その働きぶりは不破家の中でも評価されており、そんな健気な千世の姿に惹かれたのは不破家長男の正彦(まさひこ)だった。