正彦の言葉に、千世はこくんとうなずく。


空が白み始めたばかりの早朝。

千世は、不破家の屋敷をあとにしたのだった。


不破家から叢雲家までは、歩いて半月はかかる長い道のり。

途中、険しい山道や土砂降りの雨にも見舞われたが、千世は正彦のため紫雨のもとへと急いだ。



不破家を出て14日目のこと――。


「…着いた」


ついに千世は、叢雲家の屋敷へとたどり着いた。


モダンな洋館の造りの不破家とは違い、叢雲家は昔ながらの日本家屋。

広々とした屋敷の敷地内は塀で囲まれ、立派な門かぶりの松が千世を見下ろす。


「ごめんください…!」


緊張した面持ちで門をたたく千世。


すると、ひとりでに門が開いた。

不気味な光景に、千世はごくりとつばを飲む。


そして、千世が屋敷の敷地内へ入ると、再び門はひとりでに閉まった。