「しかし…」

「これはわたしの問題なので、わたしが行きます。…それに、仮にもわたしの夫。殺されるようなことはありません」


凛とした表情で正彦を見つめる千世。


正彦は鬼が恐ろしく、とてもじゃないが離縁してくれとは言いにいけない。

千世が自ら行くと言うことに、それを止める意味などなかった。


「…わかった。千世にはしばらく(いとま)を与えよう」

「ありがとうございます…!」


千世は深々と頭を下げた。


こうして、千世は離縁を申し出るため、顔も知らぬ夫へ会いにいく決意をした。


すべては、正彦と夫婦になるため。



――そして、千世が出発の日。


「千世。くれぐれも気をつけて」

「はい。必ず離縁状をいただいて戻ってまいります」

「ああ、待ってる。それまで、父さんは僕が説得しておくから」