苦しそうに声をもらす正彦。


「…千世も聞いていただろう?叢雲紫雨は“鬼”だと。鬼は人間の生き血を好むと聞く。いくら陽の鬼とはいえ、命を奪われる危険性があるというのに、わざわざこちらから出向くというのは…」


将来を考えていた恋人が、――実は婚約済み。

しかもその相手は、人間嫌いと噂される鬼。


もし鬼を怒らせるようなことがあれば、人間などひとたまりもない。

鬼に会いに行くというのは、下手をしたら死にに行くのと同じこと。


すべてが絶望的で、正彦は完全に参っていた。

それは、千世の目から見ても明らかだった。


「でしたら、…わたしがその叢雲様に会いにいってきます」

「…千世が!?…1人で!?」

「はい。正彦さんは不破家の大事なご長男。万が一なにかあっては、それこそお父様に顔向けできません」