疑いの目をそばいる千世に向ける。


「正彦さん、信じてください…!わたしは本当に婚姻のことは知らなくてっ…」

「…ああ、わかってる。千世がそんなことするはずないって…。でも、戸籍がああなっている以上は、どうにも…」


そう言って、唇を噛んで黙り込んでしまう正彦。


千世もわかっていた。

理由はどうあれ、自分がだれかと婚姻関係にある以上、正彦とは結ばれないことは。


「…叢雲紫雨という男に離縁状を一筆書かせれば、千世との婚姻関係は解消されるんだが…」

「離縁状…。それさえあれば、正彦さんと――」

「ああ。父さんも考え直してくれるはずだっ」


正彦の言葉に、わずかに希望の光を見出した千世。


「それでは、すぐにでもその方のところへ行って離縁状を――」

「そうしたいのは山々なんだが…」