「どちらにしても、ワシは互いの合意のみで勝手に婚姻離縁を許そうとは思ってはおらん。不破家の戸籍を汚さないためにも、すでに婚姻しているお前を大事な跡取り息子の正彦と結婚させるわけにはいかん」


戸籍など気にしない庶民の家、またはすべてを有耶無耶にすることもできる力を持つ大財閥であれば、名前貸しでの婚姻ならばそれほど目くじらを立てられなかったことだろう。

そもそも、自身について調べられることもなく、千世はこの事実を知らずに人生を歩んでいたことだろう。


しかし、不破家は戸籍をなによりも重んじる。

少しでも不都合なことがあってはならない。


「わかったな、正彦。この娘のことは諦めろ」


正彦との幸せな毎日を夢見ていた日々から一変、千世は絶望のどん底へと突き落とされた。


貞夫の部屋から出た正彦は、意気消沈していた。