そこに、貞夫がため息をつく。


「もし、言っていることが嘘ではなく身に覚えのないことだというのなら、これはお前の両親が勝手に取り交わした婚姻だろう」

「わたしの両親が…?どうしてそんなこと…」

「他にも、この婚姻の際に、相手から多額の結納金を受け取っていることがわかった。おそらくは、金に目がくらんでお前の名前を勝手に売ったのだろう」

「そんなこと…」


愕然として放心状態の千世。


貞夫の話では、この叢雲紫雨という男は人間ではなく鬼。

陽の鬼に分類され、陰の鬼をも凌ぐ強大な妖力の持ち主で、その妖術により財をなしてきた叢雲家の当主であった。


鬼は、一夫多妻婚が認められている。

そのため、複数の陽の鬼の女や人間の女を妻に取ることはめずらしくはない。


とくに財力のある叢雲の名ほしさに、婚姻状の紙切れだけで夫婦関係を取り繕おうとする家があってもなんら不思議ではなかった。