風が静かに流れる茅葺(かやぶ)き屋根の大きな屋敷の玄関先に、古い箒草のほうきで庭掃除をしている冴えない女がいた。

 髪はボサボサの三つ編みで、着物は継ぎはぎだらけの雑巾色。

特色すべきは女の顔にかかった大きな丸眼鏡で、元は手持ちタイプの鼻眼鏡だったのか両端に紐を通し耳にかけている。

レンズが厚いためか、女の目が小さく見えた。

一言でいうと、似合っていない。むしろ、似合っていないを通り越して、笑いを狙っているかのようにおかしな姿だ。

女の名前は、灰神楽(はいかぐら) 琴禰(ことね)

今年で十八歳になるうら若き乙女であるのに、みすぼらしい見た目と、大きな丸眼鏡のため台無しだ。

「ちょっと琴禰! 玄関前に塵が溜っているじゃない、ちゃんと掃除してよ!」

 小鳥のさえずりの下で静かに掃除していた琴禰は、大きな金切り声に顔を上げる。

 するとそこには、蝶柄の刺繍が入った御所染の上質な着物にべっ甲の帯留めをして、腰元まで届く艶やかな紺鼠(こんねず)色の髪をした気の強そうな女が立っていた。