逢魔時に出会う誰そ彼

『その日は、俺の人生、全てが変わった日だった。』

幼い頃から自分が瑞桃を守る玄武だと信じて疑わなかった。厳格な曾祖父さんに育てられ、瑞桃のあらゆることを教えてもらった。俺の『あやかし』の知識のほとんどは曾祖父さんから教えてもらったことだった。「俺はきっと玄武に選ばれる人間なのだ。」そう思うと、なんだか誇らしくて、修行の日々も苦じゃなかった。結果、その考えは当たっていた。その日、俺は姉や曾祖父さんと同じ玄武の加護を授かる。『たった一つ』違ったのは、俺だけは『四神の玄武』ではなく『五神の玄武』だったことだ。

瑞桃の入学式。俺は式が終わってすぐ、ある人を探していた。俺は自分が『瑞桃の玄武』に選ばれる自信があったからだ。
「姉さん!」
桜舞う校舎。姉さんは学校の中心である中庭にいた。周りに人はいない。姉さんが振り返った。その瞬間、景色が変わった。姉さんと俺がいるのは、水の流れる深い森の中。俺は周りを見渡した。
「これは……⁉︎」
「あらぁ、やっぱり武なのね〜。」
景色が変わったにも関わらず、姉さんは相変わらずおっとりと話す。
「もしかして、これが四神の継承なのか……?瑞桃の校内で、当代と継承相手が出会うと起きると言われている……」
「まぁ、玄武は比較的見つけやすいのよね〜。他の皆は会えたかなぁ。」
喧嘩してなきゃいいけど、と姉さんは呟く。俺は気持ちが高揚した。やっぱりだ。俺は選ばれた。尊敬している曾祖父さん、そして姉と同じ四神。俺はそれに選ばれたんだ。
『我の加護の子。後継者を見つけたか。』
「あら、久しぶり。」
「玄武……」
それは書斎で何度も見た絵姿と同じ生き物。玄武。亀と蛇の姿をしているそれは姉さんと俺を見ていた。姉さんは玄武の亀にお辞儀をし、さらに蛇を覗き込み、微笑んだ。
「ふふっ、面白みはないんですけどね?私の弟がそうみたい。」
『玄武は血の流れの中に多い。』
「そうなのよね〜。私としては実は武が違う加護でしたーとかでも良かったんだけど。」
面白半分に姉さんが言うもんだから、俺は少しムッとした。
「姉さん!俺は玄岩神社の後継者として、これまで生きてきたんだぞ。」
「ごめんごめん。」
姉さんが謝った。そして、こほん、と咳払いをして、正面から俺を見つめて問う。
「では、次の加護の子よ、あなたは宿星を受け入れますか?」
「あぁ。もちろんだ。曾祖父さんや姉さんが守り抜いた瑞桃を、俺が引き継ごう。」
「だそうよ?」
姉さんが玄武に言った。
『あぁ、では授けよう。』
玄武の、亀の方が俺を見る。声が響く。
『瑞桃に現れし誰そ彼 汝に この力 授けよう 平穏を脅かす誰そ彼 この力強い輝きに解かされよ』
強い光が周りを包む。俺は思わず、その雪面のように輝く光を掴んだ。ずしりと何か重いものが手に当たる。
『玄岩の者よ、瑞桃を頼む。』
光が消えた時、俺は盾を持っていた。周りの景色が中庭に戻っている。
「これは…」
姉さんを見ると、姉さんが微笑む。
「この宿星が、武にとって素敵なことであるよう、祈ってるわ。」
「曾祖父さんや姉さんが守ってきた瑞桃を守りきることを、ここに誓おう。」
「うん。頼むわね。」
姉さんは少し眉を下げて笑った。
「さ〜て、いきましょうか!」
「?どこに行くんだ?」
「あなたの仲間に会いに、よ!」
姉さんがパチンとウインクをする。
「あぁ、確かに、玄武の俺がいないとな。」
玄武は、歴代四神をまとめる役割だ。俺は気を引き締めた。歩き出した姉さんを追いかけるように、俺は足を踏み出した。その時の俺は知らなかった。まさか、100年に1度ほどしか現れないと言われる麒麟が俺の代に現れること。そして、その麒麟が、か弱く泣き虫な女の子であることを。