「休憩だ〜!」
「お疲れ様、聖人くん。」
僕が伸びをする横で、凛さんが労ってくれる。
「じゃ、色々まわりましょ。」
「まじでこの格好でまわるの?」
朱音さんの言葉に、龍哉くんがげんなりした顔をした。凛さん、朱音さんは執事服。龍哉くんはメイド服。クラスメイトに言われたのは、このまま休憩で学祭をまわってきて宣伝してこいとのことだった。
「リストアップしてたとこ、まわろうねぇ〜!」
凛さんはノリノリだ。というか、執事服なことをあまり気にしていない。
「本山くんは元気に休憩に行ったね…。」
「一緒にまわるらしい田浦が嫌がってたけどな?」
僕と龍哉くんは、ミニスカメイドの本山くんに引っ張られていった田浦くんに同情した。
「晶がね〜、絶対寄ってね!って言ってたから。顔覗かせてこ〜。」
凛さんが、階段を挟んで隣の白水くんのクラスを覗く。
「白水のクラスは2年1組だから…料理教室ね。」
朱音さんが学祭のパンフレットを読む。
「確かに白水くんを筆頭に料理部が多いクラスだもんね。」
僕はそう言って、凛さんと同じように教室を覗いた。
「晶が先生やってる。」
凛さんが指さす先を見た。
「…では、ここに少しずつ混ぜていって…そうそう。皆さん、お上手ですね。」
微笑みながら、料理を教える姿はまさに『料理部の王子』。
「や…優しそう…。」
「むちゃくちゃ外面ね。」
僕が言葉をこぼすと、凛さんの後ろにいる朱音さんが鋭く言った。龍哉くんも「ハッ。」とあきれたように笑う。そうだ、彼の外面はあれなんだ…。きゃっきゃと料理教室に参加している様々な年齢層の女性たちが色めき立つ。小さい子からおば様たちまで、範囲広く参加しているようだった。その中でも、他校の同い年くらいの女子が、白水くんに急接近する。
「これ、ちょっと難しくて…どうすればいいですかぁ?」
そう言いながら、上目遣いで白水くんを見る。
「あ、こっちも〜、ちょっと力足りないかもぉ。」
今度は少し年上の女子高生が、白水くんに近づいていく。白水くんに近づいた同士にバチっと火花が散った気がした。う〜ん…女の戦い。
「順番に手伝いますね〜。」
ぎゅむぎゅむ近づいてくる女性陣をスマートにかわす白水くん。
「モ、モテモテだね…。白水くん…。」
僕は、少し苦笑いになりながら、隣にいる凛さんに言う。
「……」
「凛さん?」
いつもの「そうだね〜」みたいな、ゆるい返事がないから隣を見る。
「……」
凛さんは無言だった。ちょっと面白くなさそうに、ちゅんと口を小さく尖らせている。さらに女性陣が白水くんに迫ると、凛さんは口元はそのまま、眉をぴくりと動かした。……おやおやおや?珍しい反応。僕が、その反応の意味を深読みしていると、白水くんが僕たちの方を見た。
「あっ!凛ちゃん!」
僕たち…いや、凛さんに気づいた白水くんが、他のクラスメイトに、女性陣たちを任せて、扉の方に駆け寄ってくる。ぱぁぁあ…!とさっきまでの王子スマイルとはまた違う、にこにこ笑顔の白水くん。
「やっと来てくれたぁ。いつ来てくれるだろうってずっと考えてた。」
ふふふ、と笑う。
「ん…。忙しい時だったかな〜。ごめんね?」
ほんの少し、誰も気づかないくらいに何かを含めたような凛さんの言葉。凛さんの表情はいつも通りに戻っている。
「ううん!全然!会いたかった!朝は、そっちのクラスに行ったらバケモノばっかで…」
「誰がバケモノだよ。」
「龍哉と本山への悪口ね。」
白水くんの言葉に、龍哉くんと朱音さんが言った。
「…ねこ。」
「うん?」
凛さんの突然の言葉に、白水くんが聞き直そうと少し顔を近づける。
「ねこのエプロン。やっぱり似合ってる。」
「あは、ありがとう。凛ちゃんがくれたから、最近はずっとこれ。」
エプロンを見せるように広げる白水くん。教室の中の方から、小さく「え〜やっぱ彼女持ちじゃん。」「エプロン、彼女からのプレゼントだって。かわいいやつだったもんね。」と残念そうな声が聞こえた。
「だって晶のこと考えて選んだもん。」
凛さんが、ふふん♪とおんぷがつくような笑い方で、満足そうな顔をした。その様子に僕はさらに深読みをしてしまう。
「そうそう、寄って欲しかったのは、これ。」
白水くんが、凛さんに大きめの紙袋を渡す。
「今日、ぼくがここで教えてる時に作ったお菓子。」
「いっぱいだね!」
「流石に多くね?」
うれしそうな凛さんの後ろから紙袋を覗きこむ龍哉くん。
「今日作った分、全部だからね。今日は学祭だから屋台とかで色んな美味しいものを食べるだろうけど、ぼくのお菓子が一番美味しいって思い出してもらえるように…。」
まるで星に切なる願いするような言い方をする白水くん。
「気持ちも量もカロリーも重いわね。」
「オレなら胃もたれするわ。」
「凛さんは平気だろうけど…。」
朱音さんの冷たくも適切な言葉に、龍哉くんと僕は頷く。凛さんはうれしそうに紙袋を抱えていた。
「いや、これは…。」
「ありなの?」
龍哉くんと僕が、武くんを見る。
「しょうがないだろう。展示につけるメモのために話を聞いてたら『自分も連れて行け』って皆が言ったんだ。」
武くんがため息をついた。武くんのクラスの展示を見に行くと、見覚えのある茶器や簪。
「付喪神たち、連れてきていいの?」
もう一度、僕は武くんに言った。
「姉さんのクラスの展示に行ったやつもいる。多すぎるから半分ずつ連れて行くことになったんだ。」
…つまり、「俺だけじゃない」と言いたいのだろう。横目で武くんを見る。
「俺たちみたいな人間にしか、付喪神だとは分からないはずだ。それに動かないようには言っている。」
確かにいつもと違う雰囲気の付喪神たち。動いてないと目や口の存在が分からない。まるで普通の道具のようだ。
「聖仁たちがいると話したがるから、早めに出てくれ。」
「見にきた客に言うことじゃねぇ〜。」
武くんの言葉に、龍哉くんがぶーぶー文句を言う。
「みんな大人しくしてるんだよ〜。」
凛さんが、付喪神たちに、小さく声をかける。ちゃりちゃりと茶器たちも小さく頷いた。あ、鈴彦姫も来てる。教室を出るときに、手を振ると、鈴彦姫も小さく手を振り返してくれた。
「僕、ちょっと写真も撮りたいから、後からもう一度合流してもいい?」
廊下を歩きながら、みんなに話しかける。
「ふぃふぃふょ〜(いいよ〜)。」
白水くんからもらった紙袋の中のお菓子を食べながら、凛さんが返事をした。
「あたしたちも部員のとこ、行ってこようかしら。」
「顔出すくらいはしとくか…この格好だけどな。」
3人と分かれて、行動する。写真を撮ってまわっていると、職員室の奥の方に人影が見えた。その人影が座り込む。体調が悪いのだろうか?僕は駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
声をかける。そこには僕の祖母と同じ歳くらいのご婦人が座り込んでいた。ご婦人が僕を見て、少し驚いた顔をした後に微笑んだ。
「あら、驚かせちゃったわね。ありがとう。大丈夫よ。もうすぐ、知り合いが迎えに来るの。」
ご婦人の顔色が悪いような気がした。同じように隣に座り込んだとき、僕自身に異変があった。ぞわり。背筋を氷でなぞられたような悪寒。嫌な空気を感じた。この違和感は……?ごくり、と唾を飲み込む。すると、ご婦人が僕の顔を覗き込んだ。
「……あなた、大丈夫?」
心配した相手に心配されて少し情けなく思いながらも、ぞわぞわする悪寒が体を駆け巡っていて、へにゃりと笑うことしか出来なかった。
「あ…大丈夫です。僕も人酔いしちゃったかな。あはは……。」
「ちょっとこっちに。手を貸して。」
ご婦人が僕の手を包んだ。皺のあるその手は僕の手より少し小さくて、それなのに安心感があった。ご婦人は僕の手と一緒に何かを握りしめていた。
「何か持ってるんですか?」
そう聞くと、ご婦人は手の中のものを見せてくれた。その手には、よく見慣れた瑞桃の守り…によく似たお守り。
「それは……?」
「あなたに、おまじないを教えてあげるわね。大切なおまじないだから、しっかり聞いてなさい。」
そう言って、ご婦人は僕の手とお守りを両手の中に包んで、わらべうたを歌うように唱えはじめた。
『月を見れば望月。八面玲瓏を願う。守り神よ、力を貸したまへ―――心月孤円光吞万象。』
ご婦人がそう言うと、お守りが返事をしたかのように、あたたかく瞬いた気がした。
「さぁ。これでおまじないが効いてるから大丈夫よ。」
にこりと笑うご婦人。それは『いたいのいたいの飛んでいけ』をしてくれた祖母を思わせた。心なしか、ふわりとあたたかい感覚。僕は悪寒が治っていることに気づいた。
「え?あれ?」
「気分はどう?」
「あ、えっと、治りました!」
「良かったわね。あら、わたしもお迎えが来たわ。」
ご婦人が指さす先には……。
「白沢先生?」
「良かった〜!ここにいたんですね。あれ?四方さん。」
「あら、あなたたち、知り合いだったのね?」
僕と白沢先生がお互いの顔を見てるとご婦人がそう言った。
「えっと、このご婦人は……?」
僕はご婦人を見る。するとご婦人はにっこりと笑った。
「初めまして。わたしは校長の三千年 君子です。……あなたお名前は?」
僕は驚きすぎて、なかなか声が出ない。完璧に外部のお客さんだと思ってた…!
「……は、初めまして。2年2組の四方 聖仁です…。」
この人が校長先生…そういえば、これまで見たことなかった…。
―――何でもない学祭。校長先生との出会い。そして、校長先生の『おまじない』が、今後の運命を大きく左右するなんて、僕は思いもしなかった。
「お疲れ様、聖人くん。」
僕が伸びをする横で、凛さんが労ってくれる。
「じゃ、色々まわりましょ。」
「まじでこの格好でまわるの?」
朱音さんの言葉に、龍哉くんがげんなりした顔をした。凛さん、朱音さんは執事服。龍哉くんはメイド服。クラスメイトに言われたのは、このまま休憩で学祭をまわってきて宣伝してこいとのことだった。
「リストアップしてたとこ、まわろうねぇ〜!」
凛さんはノリノリだ。というか、執事服なことをあまり気にしていない。
「本山くんは元気に休憩に行ったね…。」
「一緒にまわるらしい田浦が嫌がってたけどな?」
僕と龍哉くんは、ミニスカメイドの本山くんに引っ張られていった田浦くんに同情した。
「晶がね〜、絶対寄ってね!って言ってたから。顔覗かせてこ〜。」
凛さんが、階段を挟んで隣の白水くんのクラスを覗く。
「白水のクラスは2年1組だから…料理教室ね。」
朱音さんが学祭のパンフレットを読む。
「確かに白水くんを筆頭に料理部が多いクラスだもんね。」
僕はそう言って、凛さんと同じように教室を覗いた。
「晶が先生やってる。」
凛さんが指さす先を見た。
「…では、ここに少しずつ混ぜていって…そうそう。皆さん、お上手ですね。」
微笑みながら、料理を教える姿はまさに『料理部の王子』。
「や…優しそう…。」
「むちゃくちゃ外面ね。」
僕が言葉をこぼすと、凛さんの後ろにいる朱音さんが鋭く言った。龍哉くんも「ハッ。」とあきれたように笑う。そうだ、彼の外面はあれなんだ…。きゃっきゃと料理教室に参加している様々な年齢層の女性たちが色めき立つ。小さい子からおば様たちまで、範囲広く参加しているようだった。その中でも、他校の同い年くらいの女子が、白水くんに急接近する。
「これ、ちょっと難しくて…どうすればいいですかぁ?」
そう言いながら、上目遣いで白水くんを見る。
「あ、こっちも〜、ちょっと力足りないかもぉ。」
今度は少し年上の女子高生が、白水くんに近づいていく。白水くんに近づいた同士にバチっと火花が散った気がした。う〜ん…女の戦い。
「順番に手伝いますね〜。」
ぎゅむぎゅむ近づいてくる女性陣をスマートにかわす白水くん。
「モ、モテモテだね…。白水くん…。」
僕は、少し苦笑いになりながら、隣にいる凛さんに言う。
「……」
「凛さん?」
いつもの「そうだね〜」みたいな、ゆるい返事がないから隣を見る。
「……」
凛さんは無言だった。ちょっと面白くなさそうに、ちゅんと口を小さく尖らせている。さらに女性陣が白水くんに迫ると、凛さんは口元はそのまま、眉をぴくりと動かした。……おやおやおや?珍しい反応。僕が、その反応の意味を深読みしていると、白水くんが僕たちの方を見た。
「あっ!凛ちゃん!」
僕たち…いや、凛さんに気づいた白水くんが、他のクラスメイトに、女性陣たちを任せて、扉の方に駆け寄ってくる。ぱぁぁあ…!とさっきまでの王子スマイルとはまた違う、にこにこ笑顔の白水くん。
「やっと来てくれたぁ。いつ来てくれるだろうってずっと考えてた。」
ふふふ、と笑う。
「ん…。忙しい時だったかな〜。ごめんね?」
ほんの少し、誰も気づかないくらいに何かを含めたような凛さんの言葉。凛さんの表情はいつも通りに戻っている。
「ううん!全然!会いたかった!朝は、そっちのクラスに行ったらバケモノばっかで…」
「誰がバケモノだよ。」
「龍哉と本山への悪口ね。」
白水くんの言葉に、龍哉くんと朱音さんが言った。
「…ねこ。」
「うん?」
凛さんの突然の言葉に、白水くんが聞き直そうと少し顔を近づける。
「ねこのエプロン。やっぱり似合ってる。」
「あは、ありがとう。凛ちゃんがくれたから、最近はずっとこれ。」
エプロンを見せるように広げる白水くん。教室の中の方から、小さく「え〜やっぱ彼女持ちじゃん。」「エプロン、彼女からのプレゼントだって。かわいいやつだったもんね。」と残念そうな声が聞こえた。
「だって晶のこと考えて選んだもん。」
凛さんが、ふふん♪とおんぷがつくような笑い方で、満足そうな顔をした。その様子に僕はさらに深読みをしてしまう。
「そうそう、寄って欲しかったのは、これ。」
白水くんが、凛さんに大きめの紙袋を渡す。
「今日、ぼくがここで教えてる時に作ったお菓子。」
「いっぱいだね!」
「流石に多くね?」
うれしそうな凛さんの後ろから紙袋を覗きこむ龍哉くん。
「今日作った分、全部だからね。今日は学祭だから屋台とかで色んな美味しいものを食べるだろうけど、ぼくのお菓子が一番美味しいって思い出してもらえるように…。」
まるで星に切なる願いするような言い方をする白水くん。
「気持ちも量もカロリーも重いわね。」
「オレなら胃もたれするわ。」
「凛さんは平気だろうけど…。」
朱音さんの冷たくも適切な言葉に、龍哉くんと僕は頷く。凛さんはうれしそうに紙袋を抱えていた。
「いや、これは…。」
「ありなの?」
龍哉くんと僕が、武くんを見る。
「しょうがないだろう。展示につけるメモのために話を聞いてたら『自分も連れて行け』って皆が言ったんだ。」
武くんがため息をついた。武くんのクラスの展示を見に行くと、見覚えのある茶器や簪。
「付喪神たち、連れてきていいの?」
もう一度、僕は武くんに言った。
「姉さんのクラスの展示に行ったやつもいる。多すぎるから半分ずつ連れて行くことになったんだ。」
…つまり、「俺だけじゃない」と言いたいのだろう。横目で武くんを見る。
「俺たちみたいな人間にしか、付喪神だとは分からないはずだ。それに動かないようには言っている。」
確かにいつもと違う雰囲気の付喪神たち。動いてないと目や口の存在が分からない。まるで普通の道具のようだ。
「聖仁たちがいると話したがるから、早めに出てくれ。」
「見にきた客に言うことじゃねぇ〜。」
武くんの言葉に、龍哉くんがぶーぶー文句を言う。
「みんな大人しくしてるんだよ〜。」
凛さんが、付喪神たちに、小さく声をかける。ちゃりちゃりと茶器たちも小さく頷いた。あ、鈴彦姫も来てる。教室を出るときに、手を振ると、鈴彦姫も小さく手を振り返してくれた。
「僕、ちょっと写真も撮りたいから、後からもう一度合流してもいい?」
廊下を歩きながら、みんなに話しかける。
「ふぃふぃふょ〜(いいよ〜)。」
白水くんからもらった紙袋の中のお菓子を食べながら、凛さんが返事をした。
「あたしたちも部員のとこ、行ってこようかしら。」
「顔出すくらいはしとくか…この格好だけどな。」
3人と分かれて、行動する。写真を撮ってまわっていると、職員室の奥の方に人影が見えた。その人影が座り込む。体調が悪いのだろうか?僕は駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
声をかける。そこには僕の祖母と同じ歳くらいのご婦人が座り込んでいた。ご婦人が僕を見て、少し驚いた顔をした後に微笑んだ。
「あら、驚かせちゃったわね。ありがとう。大丈夫よ。もうすぐ、知り合いが迎えに来るの。」
ご婦人の顔色が悪いような気がした。同じように隣に座り込んだとき、僕自身に異変があった。ぞわり。背筋を氷でなぞられたような悪寒。嫌な空気を感じた。この違和感は……?ごくり、と唾を飲み込む。すると、ご婦人が僕の顔を覗き込んだ。
「……あなた、大丈夫?」
心配した相手に心配されて少し情けなく思いながらも、ぞわぞわする悪寒が体を駆け巡っていて、へにゃりと笑うことしか出来なかった。
「あ…大丈夫です。僕も人酔いしちゃったかな。あはは……。」
「ちょっとこっちに。手を貸して。」
ご婦人が僕の手を包んだ。皺のあるその手は僕の手より少し小さくて、それなのに安心感があった。ご婦人は僕の手と一緒に何かを握りしめていた。
「何か持ってるんですか?」
そう聞くと、ご婦人は手の中のものを見せてくれた。その手には、よく見慣れた瑞桃の守り…によく似たお守り。
「それは……?」
「あなたに、おまじないを教えてあげるわね。大切なおまじないだから、しっかり聞いてなさい。」
そう言って、ご婦人は僕の手とお守りを両手の中に包んで、わらべうたを歌うように唱えはじめた。
『月を見れば望月。八面玲瓏を願う。守り神よ、力を貸したまへ―――心月孤円光吞万象。』
ご婦人がそう言うと、お守りが返事をしたかのように、あたたかく瞬いた気がした。
「さぁ。これでおまじないが効いてるから大丈夫よ。」
にこりと笑うご婦人。それは『いたいのいたいの飛んでいけ』をしてくれた祖母を思わせた。心なしか、ふわりとあたたかい感覚。僕は悪寒が治っていることに気づいた。
「え?あれ?」
「気分はどう?」
「あ、えっと、治りました!」
「良かったわね。あら、わたしもお迎えが来たわ。」
ご婦人が指さす先には……。
「白沢先生?」
「良かった〜!ここにいたんですね。あれ?四方さん。」
「あら、あなたたち、知り合いだったのね?」
僕と白沢先生がお互いの顔を見てるとご婦人がそう言った。
「えっと、このご婦人は……?」
僕はご婦人を見る。するとご婦人はにっこりと笑った。
「初めまして。わたしは校長の三千年 君子です。……あなたお名前は?」
僕は驚きすぎて、なかなか声が出ない。完璧に外部のお客さんだと思ってた…!
「……は、初めまして。2年2組の四方 聖仁です…。」
この人が校長先生…そういえば、これまで見たことなかった…。
―――何でもない学祭。校長先生との出会い。そして、校長先生の『おまじない』が、今後の運命を大きく左右するなんて、僕は思いもしなかった。



