☆本話の作業用BGMは、『タイミング』(中西圭三)でした。
ブラックビスケッツのヒット曲を、作曲のあの方(天才!)自らお歌いになっております、めっちゃ綺麗なお声で。歌詞読んでたら少し泣いちゃいました。ほんと歳取ると……。
個人的に、「お友達になってほしい」方です。一緒にカラオケしたい……恐れ多いですけど。
なんか、可愛らしいんですよね……上からで申し訳ございません。
あ、『ぱわわぷたいそう』(※お●あさんといっしょ)も良かったっす!
ーーーーーー
えーさてー(小林完吾アナ風)、小雨降る小道をすれ違う際、日本には「江戸しぐさ」のひとつ、「傘かしげ」なる所作がありますよね(確認)。
お互い傘を傾けて行き違うという、和の思い遣りともいふべき美しい姿。
当たり前のようにも思えるものですが、お国が違うと解釈が違うのでしょうか。
同じ小道で晴れの日でも、お互いが同じ方向へ避けようとして、「お見合い現象」が続くことがよくあるかと存じます。
これは「連続回避本能」という、人間特有の「本能的に、直前の行動と同じ動きを避けようとする性質」なのだとか。
これを回避するには、「立ち止まる」「大きく避ける」などが有効だそうなので、私もこの間実践してみたわけです。
霧雨の舞うその日——浅草は浅草寺・仲見世の裏道を歩いておりますと、前方より外国人観光客と思しき長身の男性がひとり、幾らか前屈みに歩いてきました。
ぶつかる直前で向こうも気が付いて、すわ「お見合い現象」勃発かと思われた一瞬、私は自信を持って仁王立ち。心の中で(プリ●ュア!)と気合を入れます。
死んだノドグロのような目をした男性は何を思ったか――こちらへ真っ直ぐ体当たりをかましたのであります。
私はなす術なくペタンと尻もちをついて、小さな水溜りにジュンと浸かります。
あれ? 有効な回避行動のハズなのに……。
呆然と見上げる私を男性が一瞥すると、
「WHYジ●パニーズピーップォーッ!」
一声叫び、そのまま(謝罪もなく)おしゃんてぃなフォームで駆け去ったのでした。
厚切りジェ●ソンでもないのに。寧ろ薄切りでしょう、情もヘッタクレもない……。
ぼーっとしている内、パンツがじわり濡れてきて慌てて立ち上がり、私は片目から温い水を一滴零すと――猛烈な勢いで悲しくなったのでございます。
ツイてない……傘かしげにも辿り着かず。
一体どうすりゃよかったのでしょう、お母さま。
☆☆☆
「ツイてない御苑へようこそ」
【お久しぶり!】
久しぶりに顔を見せた渚さん(クラブ「ホームルーム」のチーママ)は、椅子に掛けるなり、
『遠く~遠く~(フンガフンガ)』※1
というボタンを押下しました。
「これはどなたで?」
【中西●三さんね。●●●●って曲の歌詞】
「ふうん……」
あの方ですか。ホ~ホリホーリハァ~の。※2
「本日はどうされましたか」
【この間、ウチに「ニューフェイス」が入ったのね】
「ああ、P●Yとかいう小太りのラッパー(?)が歌っていた――」
【そっちじゃないの。……あたしは「ダ●ィ」の方が好きかな。あの妙な踊りがツボで】
「あの体型でよく踊れますよね」
ニューフェイス――ハタチそこそこの小柄な女子大生だそうです。
【面接はあたしと、珍しくグランマ(オーナーのお婆ちゃん)が担当したの】
「校長先生ですか」
【グランマと同郷らしくて。ビジュアルは座敷童しみたいな――前髪ぱっつん? おかっぱで……ちょっと訛のある――】
割りと野暮ったい感じだったそうです。
【独特なテンポというか、会話が上手く嚙み合わなくて】
「でも、採用になったわけですね」
【そう……あたしは、ちょっとこの感じで接客はどうかなと思ったんだけど】
「では、グランマが?」
【鶴のひと声よね……同郷のよしみもあったものか……正直、荷物を押し付けられた感はあったなあ】
浮かない顔で頬に手をあてると、無意識なのか、幸せが逃げそうな溜息が漏れます。
「えーと……訛っている娘はカワイイとも言いますし、座敷童し……も見ようによってはまあ……訛は色っぽいとも……言いませんか? 言いませんね」
【も少し頑張れ】
やがて彼女も初出勤を迎えました。
☆☆☆
顧客の年齢層高めのお店らしいですが、
【その日は比較的若いグループにヘルプで――言っても、四十代なんだけど】
ドレスアップした座敷童し似の娘さんは、端っこにちょこんと座り、
【取り敢えず、相槌だけ打ってたわ。「……ンだな」とか「ンだなは」しか言わない】
「ははあ」
【それも、なんか間が合わないのよね。ワンテンポ遅れるってゆーか】
段々、白けた空気が漂い始め、やがて場が煮詰まっていった頃合いで、
【ご高齢のグループからあたしに指名が入って。その娘も連れて、これ幸い、サッと移動したわけ】
珍しくグランマも出勤して、そのテーブルに後から付いたそうで。
【彼女はそこでもテンポ遅れの相槌を打っていたんだけど……】
なぜかそのテーブルのお客さん方は、だんだんとそのテンポに馴染んでいったようで、
【特に、グランマとその娘が会話に加わると、丁度いい感じになるの。波長が合う、というのか】
「ご老体方のリズムと共鳴するものがあったのでしょうか」
【かもね】
一番老齢のお客さんが、
【若い頃からラーメンが好きで、行きつけのお店に今も行ってるそうなんだけど、この間突然、麺が固く感じられて箸が止まっちゃったんだって】
「カロリーもアレですが、歯には堪えますね」
渚さん、急に赤い顔で、むふっと空気を漏らし、
【すかさずグランマが、「あまり放ったらかすと……」って突っ込んだら、あの娘が「まんずはあ、延びたラーメンが大好きっちゅう御仁もおりますからの」ってボソっと囁いたの】
「ま、まあ、それはそうかも……」
【ご老体連中、ドッカーンッ! て大ウケよ。……冷静になると、そんな面白い? 場の空気って凄いよね】
「……ややウケ」
【でもそこからそのテーブル、一層和やかないい雰囲気になって……なんか色々、負けたぁって思っちゃった】
ちろとこちらに視線を向けた渚さんのお顔には、言葉とは裏腹に、薔薇のような微笑が浮かんでいたのでございます。
【ああ、その子のキャラは「給食のおばさん」になったよ】
「生徒じゃないんですね」
【おばさんぽいしね。でも、ウチのカラーには合ってるみたいだし……】
ご本人はいたく気に入ったそうです。
『気取らなくてイイなは!』
とのことで。
☆☆☆
腕時計を軽く見やった渚さん。
【ああ、そうそう。関係ないけど、交通渋滞って何故発生するか知ってる?】
「……所謂、自然渋滞というヤツですか? うーん……あまり車に乗らないもので」
渋滞の先頭に興味は湧きますが。
【あれね、「車間距離」が原因なんだって。なんか偉い先生(?)が言ってたよ?】
皆が適切な車間距離を保っていれば、渋滞は起こらないのだそうで。
じゃ先頭の車両には責任がないのでしょうか。
【なんでも「間」っていうのは大事なんだね】
「左様で……」
【もうそろそろ行かなきゃ!】
少し慌てて立ち上がりかけた渚さんに、
「ゴッド……ブレス……」
【どうしたの。そんな途切れ途切れで】
「……ユー。こんな間合いで如何でしょう」
【ええー……い●こく堂の「衛星中継」みたいね。真面目に付き合ってたら遅刻しちゃうよう】
くすくす笑いながら、
【そろそろ、ウチの店にもいらして? お待ちしてまーす!】
「あの……性別もご存知ないですよね?」
【女性なのは分かるよ? バッチ来いだから! 是非!】
言い置いて、渚さんは颯爽と店を後にしたのでした。
ああ、車間距離——。
私も、あの外国人男性との間合いが適切でなかったのでしょうか。
いたずらに綿のパンツ濡らして……くちゅじょくぅ。
爽太くんになんと言ったらよいですか、お母さま。
別にどうもしないですね。うんうん。
再びのご招待。
どうしよ。まだ顔も晒してないのに。
でも、お世話になっておりますしねえ……。
これは、兄様に要相談ですね。
ーーーーーー
※1 中西さんは、良いアイデアが浮かぶと興奮して鼻息が荒くなるのだそうで(ゴ●ラのように)。昔、「ねる●ん」にゲストで出た際に仰ってました。
※2 『チケット トゥ パラダイス』というお歌。実際なんと仰っているのかわかりません(※歌詞を確認いたしました。英語だったのか……)
ブラックビスケッツのヒット曲を、作曲のあの方(天才!)自らお歌いになっております、めっちゃ綺麗なお声で。歌詞読んでたら少し泣いちゃいました。ほんと歳取ると……。
個人的に、「お友達になってほしい」方です。一緒にカラオケしたい……恐れ多いですけど。
なんか、可愛らしいんですよね……上からで申し訳ございません。
あ、『ぱわわぷたいそう』(※お●あさんといっしょ)も良かったっす!
ーーーーーー
えーさてー(小林完吾アナ風)、小雨降る小道をすれ違う際、日本には「江戸しぐさ」のひとつ、「傘かしげ」なる所作がありますよね(確認)。
お互い傘を傾けて行き違うという、和の思い遣りともいふべき美しい姿。
当たり前のようにも思えるものですが、お国が違うと解釈が違うのでしょうか。
同じ小道で晴れの日でも、お互いが同じ方向へ避けようとして、「お見合い現象」が続くことがよくあるかと存じます。
これは「連続回避本能」という、人間特有の「本能的に、直前の行動と同じ動きを避けようとする性質」なのだとか。
これを回避するには、「立ち止まる」「大きく避ける」などが有効だそうなので、私もこの間実践してみたわけです。
霧雨の舞うその日——浅草は浅草寺・仲見世の裏道を歩いておりますと、前方より外国人観光客と思しき長身の男性がひとり、幾らか前屈みに歩いてきました。
ぶつかる直前で向こうも気が付いて、すわ「お見合い現象」勃発かと思われた一瞬、私は自信を持って仁王立ち。心の中で(プリ●ュア!)と気合を入れます。
死んだノドグロのような目をした男性は何を思ったか――こちらへ真っ直ぐ体当たりをかましたのであります。
私はなす術なくペタンと尻もちをついて、小さな水溜りにジュンと浸かります。
あれ? 有効な回避行動のハズなのに……。
呆然と見上げる私を男性が一瞥すると、
「WHYジ●パニーズピーップォーッ!」
一声叫び、そのまま(謝罪もなく)おしゃんてぃなフォームで駆け去ったのでした。
厚切りジェ●ソンでもないのに。寧ろ薄切りでしょう、情もヘッタクレもない……。
ぼーっとしている内、パンツがじわり濡れてきて慌てて立ち上がり、私は片目から温い水を一滴零すと――猛烈な勢いで悲しくなったのでございます。
ツイてない……傘かしげにも辿り着かず。
一体どうすりゃよかったのでしょう、お母さま。
☆☆☆
「ツイてない御苑へようこそ」
【お久しぶり!】
久しぶりに顔を見せた渚さん(クラブ「ホームルーム」のチーママ)は、椅子に掛けるなり、
『遠く~遠く~(フンガフンガ)』※1
というボタンを押下しました。
「これはどなたで?」
【中西●三さんね。●●●●って曲の歌詞】
「ふうん……」
あの方ですか。ホ~ホリホーリハァ~の。※2
「本日はどうされましたか」
【この間、ウチに「ニューフェイス」が入ったのね】
「ああ、P●Yとかいう小太りのラッパー(?)が歌っていた――」
【そっちじゃないの。……あたしは「ダ●ィ」の方が好きかな。あの妙な踊りがツボで】
「あの体型でよく踊れますよね」
ニューフェイス――ハタチそこそこの小柄な女子大生だそうです。
【面接はあたしと、珍しくグランマ(オーナーのお婆ちゃん)が担当したの】
「校長先生ですか」
【グランマと同郷らしくて。ビジュアルは座敷童しみたいな――前髪ぱっつん? おかっぱで……ちょっと訛のある――】
割りと野暮ったい感じだったそうです。
【独特なテンポというか、会話が上手く嚙み合わなくて】
「でも、採用になったわけですね」
【そう……あたしは、ちょっとこの感じで接客はどうかなと思ったんだけど】
「では、グランマが?」
【鶴のひと声よね……同郷のよしみもあったものか……正直、荷物を押し付けられた感はあったなあ】
浮かない顔で頬に手をあてると、無意識なのか、幸せが逃げそうな溜息が漏れます。
「えーと……訛っている娘はカワイイとも言いますし、座敷童し……も見ようによってはまあ……訛は色っぽいとも……言いませんか? 言いませんね」
【も少し頑張れ】
やがて彼女も初出勤を迎えました。
☆☆☆
顧客の年齢層高めのお店らしいですが、
【その日は比較的若いグループにヘルプで――言っても、四十代なんだけど】
ドレスアップした座敷童し似の娘さんは、端っこにちょこんと座り、
【取り敢えず、相槌だけ打ってたわ。「……ンだな」とか「ンだなは」しか言わない】
「ははあ」
【それも、なんか間が合わないのよね。ワンテンポ遅れるってゆーか】
段々、白けた空気が漂い始め、やがて場が煮詰まっていった頃合いで、
【ご高齢のグループからあたしに指名が入って。その娘も連れて、これ幸い、サッと移動したわけ】
珍しくグランマも出勤して、そのテーブルに後から付いたそうで。
【彼女はそこでもテンポ遅れの相槌を打っていたんだけど……】
なぜかそのテーブルのお客さん方は、だんだんとそのテンポに馴染んでいったようで、
【特に、グランマとその娘が会話に加わると、丁度いい感じになるの。波長が合う、というのか】
「ご老体方のリズムと共鳴するものがあったのでしょうか」
【かもね】
一番老齢のお客さんが、
【若い頃からラーメンが好きで、行きつけのお店に今も行ってるそうなんだけど、この間突然、麺が固く感じられて箸が止まっちゃったんだって】
「カロリーもアレですが、歯には堪えますね」
渚さん、急に赤い顔で、むふっと空気を漏らし、
【すかさずグランマが、「あまり放ったらかすと……」って突っ込んだら、あの娘が「まんずはあ、延びたラーメンが大好きっちゅう御仁もおりますからの」ってボソっと囁いたの】
「ま、まあ、それはそうかも……」
【ご老体連中、ドッカーンッ! て大ウケよ。……冷静になると、そんな面白い? 場の空気って凄いよね】
「……ややウケ」
【でもそこからそのテーブル、一層和やかないい雰囲気になって……なんか色々、負けたぁって思っちゃった】
ちろとこちらに視線を向けた渚さんのお顔には、言葉とは裏腹に、薔薇のような微笑が浮かんでいたのでございます。
【ああ、その子のキャラは「給食のおばさん」になったよ】
「生徒じゃないんですね」
【おばさんぽいしね。でも、ウチのカラーには合ってるみたいだし……】
ご本人はいたく気に入ったそうです。
『気取らなくてイイなは!』
とのことで。
☆☆☆
腕時計を軽く見やった渚さん。
【ああ、そうそう。関係ないけど、交通渋滞って何故発生するか知ってる?】
「……所謂、自然渋滞というヤツですか? うーん……あまり車に乗らないもので」
渋滞の先頭に興味は湧きますが。
【あれね、「車間距離」が原因なんだって。なんか偉い先生(?)が言ってたよ?】
皆が適切な車間距離を保っていれば、渋滞は起こらないのだそうで。
じゃ先頭の車両には責任がないのでしょうか。
【なんでも「間」っていうのは大事なんだね】
「左様で……」
【もうそろそろ行かなきゃ!】
少し慌てて立ち上がりかけた渚さんに、
「ゴッド……ブレス……」
【どうしたの。そんな途切れ途切れで】
「……ユー。こんな間合いで如何でしょう」
【ええー……い●こく堂の「衛星中継」みたいね。真面目に付き合ってたら遅刻しちゃうよう】
くすくす笑いながら、
【そろそろ、ウチの店にもいらして? お待ちしてまーす!】
「あの……性別もご存知ないですよね?」
【女性なのは分かるよ? バッチ来いだから! 是非!】
言い置いて、渚さんは颯爽と店を後にしたのでした。
ああ、車間距離——。
私も、あの外国人男性との間合いが適切でなかったのでしょうか。
いたずらに綿のパンツ濡らして……くちゅじょくぅ。
爽太くんになんと言ったらよいですか、お母さま。
別にどうもしないですね。うんうん。
再びのご招待。
どうしよ。まだ顔も晒してないのに。
でも、お世話になっておりますしねえ……。
これは、兄様に要相談ですね。
ーーーーーー
※1 中西さんは、良いアイデアが浮かぶと興奮して鼻息が荒くなるのだそうで(ゴ●ラのように)。昔、「ねる●ん」にゲストで出た際に仰ってました。
※2 『チケット トゥ パラダイス』というお歌。実際なんと仰っているのかわかりません(※歌詞を確認いたしました。英語だったのか……)