☆本話の作業用BGMは、『あなた』(小坂明子)でした。
未来の淡い願望かと思っておりましたが、ご本人曰く「終わった恋」を表現したものなのだそうです。高校在学中に出来た曲だそうで。
メルヘンチックな歌ですが、「ある」と思います。
※サブタイトル、竹宮惠子大先生のSF超大作とは、まるっと関係ございません。
こっちは「寺」ですよ?(勇み足でネタバレ)
ーーーーー
猛暑は峠を越した、なんて風の便りを耳にしますが(風と話なんかするなとコ●ラに叱られそう)、寺の敷地内では未だ力の限り蝉が魂の叫びを響かせております。
遅めの朝食兼昼食後、まったりとルーム・オブ・徹子を眺めておりますと、突然兄様が離れにやって来ました。
仕方なく、
「――茶ぁでも飲みますか?」
「ヤレヤレ風に言うな。……ちよと相談なんだが」
御苑の料金を上げようかと思っている――ハゲは腕組みしてひと言呟きました。
「……なぜ?」
「お客さんも何気に増えてきたし、原材料高騰の折――」
「ウチ関係ないですよね?」
気が付いたら取っ組み合いですよ、お母さま。ははは。
勿論、無手です。
多分、何もかも暑さの所為なのです。あと蝉の声――かな?
☆☆☆
この暑い中いらっしゃった最初のお客さんは、頭ツルツルの中年男性でした。
薄青い作務衣姿、手にした白いタオルでしきりに頭周辺や首回りを拭っております。
ひょっとしたら同業者(※僧侶)かもしれませんね。
やや小太りの体を揺すり、えっちら椅子へと腰を下ろすと、
『あ●た~紅白親子共演バージョン~』
とのボタンを押下しました。
名曲ですね。確か紅白ではご尊父が指揮をふるったとのことで(※伝聞)。
お客さんはさっと受話器を手にすると、
【ア“ア“ア“ア“ア“ーーーーッ! もしもわだしが! 和田氏がぁーーー! あふぁふぁふぁーーーっ!】
いきなり大泣きです。いやマジで。泣いているんですよ?
なんかこんな絵面、以前テレビで見たことあるような。
で――和田氏? お客さんの名前でしょうか?
「和田氏!」
「如何された永峰氏?」
みたいな?
【和田氏が寺をーーーっ! ア“ーーーーッ! 建でだならあああ~ふぁふぁふぁ~っ!】
「お、落ち着いて、落ち着きましょう和田氏」
【全部わだしがぁーーー! わだしが悪いンですぅ~~あふぁふぁふぁーーー!】
お客さんが卓上のティッシュを鬼のように抜き取り、目元をぐしゃぐしゃ拭います。
あ、コラ、ちょっ、取り過ぎだよ! 高いヤツなのに! 「柔らかい方」のヤツなのに!
手に持ってるタオルでいいじゃんかよ!
そんな真似するんなら、オ、オラ値上げすっぞ?! いいのかコラ。
力ずくで有耶無耶にしたところなのに。
☆☆☆
――いつの間にか、お客さんが大人しく。
鼻を啜る音が小さく聞こえます。
台風が温帯低気圧になったような感じでしょうか。違う?
「……ツイてない御苑へようこそ。今日はどうされたのですか?」
お客さんが目を瞑って、手の平を添えた耳をこちらへ向けます。口は半開き。
なんかイラつくな。
「今日はどうされましたー!」
【ああ! ……わだし、寺を――】
「お寺を建立されたのですか?」
建立――。
忘れがたき思い出の言葉であります。
★★★
中学一年の頃、なぜか美術の授業で、担当教師がこの言葉の読みを問いました。
教室内の誰も正しく答えられず……私、勇気を出して正解を吐くと(まさに吐く思いで)、
「正解! 良く分かったね」
先生からお褒めの言葉を頂戴し、次いで教室内がドッと湧いたのです。
あの日あの時あの場所で……一瞬だけ、私はヒーローに(?)なりました。
五分ぐらいでしたかね。私のヒーロータイム。
多分、天井のシミを数えている間に終了です。
家に帰って、偶々休みだったお母さまに報告いたしましたね。
「とても嬉しく思います」と皇族風(?)に語った記憶がございます。
何故かお母さまが慌てて買い求めた、かのお赤飯の味――忘るるものではありません……。
☆☆☆
お客さんが鼻を啜りつつ、
【お寺ではなく、母屋を建て替えまして】
「あ、ああ、左様でしたか」
【この曲(あ●た)が昔から好きで、いつか歌詞をなぞるように家を建てられたらと……】
「というと、部屋には古い暖炉も」
【暖炉は無理でした。ぶら下がり健康器はありますけど】
「かすりもしないじゃないですか」
【今は洗濯物を干しております。大活躍です】
複雑に丸められたティッシュが、白い花のように卓上に咲いております。
愛でるように細めた和田氏(?)の目尻に、またじわりと涙が滲んでいるようです。
【建て替えで母屋は少しコンパクトにしまして。小さな庭ができました】
「歌詞のとおりですね」
【お陰様で。で、折角だから花を、と思ったのですが……】
「真っ赤な●●と白いパンジー」
【ええ。ところがどうも、旬を間違えて種を買って来てしまい……悪天候も重なって、全滅してしまいました……】
これが、冒頭の大泣きへと繋がったのでしょうか。
彼は、スンスンいいながら目元をちょいちょい拭います。
「他のお花では駄目なのですか?」
【うーん……出来れば歌詞のとおりにミッションをこなしたいのです】
「『ぶら●がり健康器』の時点で、はや破綻しているじゃないですか」
――なんですかそのキョトン顔は。今更?
和田氏(?)の目が落っこちそうな塩梅です。
【……そう、言われてみれば……飼っているのも子犬ではなく猫二匹ですし……】
「まるでかすりませんね……なれば、別の花でいきましょうよ。菊とかどうです? あとは………………菊?」
【——菊、激推しなんですね……】
「他に、思い入れのあるお花があれば――」
ふっと遠い目になった和田氏が沈思黙考。
暫くして、
【では……向日葵に。恩人の御名なんです……】
「……左様でございますか」
【その方と出会って……私は仏門に入る決意を固めました】
「…………」
【……忙しさにかまけて失念しておりました。全く、情けないことで……】
カクンと項垂れます。
「……その方、堅固でお過ごしですか」
【元気ですね。「永遠の0歳児」という感じで】
「――永遠の0歳児?」
【春●部の――し●ちゃんの妹さんです】
「あの『ひま』ちゃん?!」
ひまわりちゃん→出家、がどうにも繋がらない……。
経緯には非常に興味をそそられますが。
まあ。
坊様もエロエロ、人生もエロエロ。
嘗て、ジュンイチロウさんも国会でそんな風な答弁を――。
軽く俯いて頬を染める横顔を見ながら、
「ふふ。和田氏も人の子ということで(?)」
【和田氏……ああ、ごめんなさい、私の名は和田ではないのです。エミシと――】
「個人情報を明かす必要は――って、え? エミシ? えっ、坂上田村麻呂……? 違うか?」
入店時とは打って変わって、暫し和やかに歓談したのち、
【本日はありがとうございました。いきなり情けない姿を曝しまして。お恥ずかしい】
「いえいえ。お疲れ様でした」
【あまり歌に執らわれず、自由にやってみようと思います。ローンもあって中々大変ですが】
「左様で」
【おみくじをちよと値上げすれば……原材料高騰の折――】
「おみくじ関係ないよね?」
来年の夏には、向日葵の咲き誇る(という規模でもないかも)お寺が、ちょっとした観光名所になったり――ならなかったり?
「ゴッド・ブレス・ユー」
いっとき暑さを忘れ、幾分涼やかな心持ちで言葉を送ったのでございます。
それにしても……秋が待ち遠しいのですよ、お母さま。
未来の淡い願望かと思っておりましたが、ご本人曰く「終わった恋」を表現したものなのだそうです。高校在学中に出来た曲だそうで。
メルヘンチックな歌ですが、「ある」と思います。
※サブタイトル、竹宮惠子大先生のSF超大作とは、まるっと関係ございません。
こっちは「寺」ですよ?(勇み足でネタバレ)
ーーーーー
猛暑は峠を越した、なんて風の便りを耳にしますが(風と話なんかするなとコ●ラに叱られそう)、寺の敷地内では未だ力の限り蝉が魂の叫びを響かせております。
遅めの朝食兼昼食後、まったりとルーム・オブ・徹子を眺めておりますと、突然兄様が離れにやって来ました。
仕方なく、
「――茶ぁでも飲みますか?」
「ヤレヤレ風に言うな。……ちよと相談なんだが」
御苑の料金を上げようかと思っている――ハゲは腕組みしてひと言呟きました。
「……なぜ?」
「お客さんも何気に増えてきたし、原材料高騰の折――」
「ウチ関係ないですよね?」
気が付いたら取っ組み合いですよ、お母さま。ははは。
勿論、無手です。
多分、何もかも暑さの所為なのです。あと蝉の声――かな?
☆☆☆
この暑い中いらっしゃった最初のお客さんは、頭ツルツルの中年男性でした。
薄青い作務衣姿、手にした白いタオルでしきりに頭周辺や首回りを拭っております。
ひょっとしたら同業者(※僧侶)かもしれませんね。
やや小太りの体を揺すり、えっちら椅子へと腰を下ろすと、
『あ●た~紅白親子共演バージョン~』
とのボタンを押下しました。
名曲ですね。確か紅白ではご尊父が指揮をふるったとのことで(※伝聞)。
お客さんはさっと受話器を手にすると、
【ア“ア“ア“ア“ア“ーーーーッ! もしもわだしが! 和田氏がぁーーー! あふぁふぁふぁーーーっ!】
いきなり大泣きです。いやマジで。泣いているんですよ?
なんかこんな絵面、以前テレビで見たことあるような。
で――和田氏? お客さんの名前でしょうか?
「和田氏!」
「如何された永峰氏?」
みたいな?
【和田氏が寺をーーーっ! ア“ーーーーッ! 建でだならあああ~ふぁふぁふぁ~っ!】
「お、落ち着いて、落ち着きましょう和田氏」
【全部わだしがぁーーー! わだしが悪いンですぅ~~あふぁふぁふぁーーー!】
お客さんが卓上のティッシュを鬼のように抜き取り、目元をぐしゃぐしゃ拭います。
あ、コラ、ちょっ、取り過ぎだよ! 高いヤツなのに! 「柔らかい方」のヤツなのに!
手に持ってるタオルでいいじゃんかよ!
そんな真似するんなら、オ、オラ値上げすっぞ?! いいのかコラ。
力ずくで有耶無耶にしたところなのに。
☆☆☆
――いつの間にか、お客さんが大人しく。
鼻を啜る音が小さく聞こえます。
台風が温帯低気圧になったような感じでしょうか。違う?
「……ツイてない御苑へようこそ。今日はどうされたのですか?」
お客さんが目を瞑って、手の平を添えた耳をこちらへ向けます。口は半開き。
なんかイラつくな。
「今日はどうされましたー!」
【ああ! ……わだし、寺を――】
「お寺を建立されたのですか?」
建立――。
忘れがたき思い出の言葉であります。
★★★
中学一年の頃、なぜか美術の授業で、担当教師がこの言葉の読みを問いました。
教室内の誰も正しく答えられず……私、勇気を出して正解を吐くと(まさに吐く思いで)、
「正解! 良く分かったね」
先生からお褒めの言葉を頂戴し、次いで教室内がドッと湧いたのです。
あの日あの時あの場所で……一瞬だけ、私はヒーローに(?)なりました。
五分ぐらいでしたかね。私のヒーロータイム。
多分、天井のシミを数えている間に終了です。
家に帰って、偶々休みだったお母さまに報告いたしましたね。
「とても嬉しく思います」と皇族風(?)に語った記憶がございます。
何故かお母さまが慌てて買い求めた、かのお赤飯の味――忘るるものではありません……。
☆☆☆
お客さんが鼻を啜りつつ、
【お寺ではなく、母屋を建て替えまして】
「あ、ああ、左様でしたか」
【この曲(あ●た)が昔から好きで、いつか歌詞をなぞるように家を建てられたらと……】
「というと、部屋には古い暖炉も」
【暖炉は無理でした。ぶら下がり健康器はありますけど】
「かすりもしないじゃないですか」
【今は洗濯物を干しております。大活躍です】
複雑に丸められたティッシュが、白い花のように卓上に咲いております。
愛でるように細めた和田氏(?)の目尻に、またじわりと涙が滲んでいるようです。
【建て替えで母屋は少しコンパクトにしまして。小さな庭ができました】
「歌詞のとおりですね」
【お陰様で。で、折角だから花を、と思ったのですが……】
「真っ赤な●●と白いパンジー」
【ええ。ところがどうも、旬を間違えて種を買って来てしまい……悪天候も重なって、全滅してしまいました……】
これが、冒頭の大泣きへと繋がったのでしょうか。
彼は、スンスンいいながら目元をちょいちょい拭います。
「他のお花では駄目なのですか?」
【うーん……出来れば歌詞のとおりにミッションをこなしたいのです】
「『ぶら●がり健康器』の時点で、はや破綻しているじゃないですか」
――なんですかそのキョトン顔は。今更?
和田氏(?)の目が落っこちそうな塩梅です。
【……そう、言われてみれば……飼っているのも子犬ではなく猫二匹ですし……】
「まるでかすりませんね……なれば、別の花でいきましょうよ。菊とかどうです? あとは………………菊?」
【——菊、激推しなんですね……】
「他に、思い入れのあるお花があれば――」
ふっと遠い目になった和田氏が沈思黙考。
暫くして、
【では……向日葵に。恩人の御名なんです……】
「……左様でございますか」
【その方と出会って……私は仏門に入る決意を固めました】
「…………」
【……忙しさにかまけて失念しておりました。全く、情けないことで……】
カクンと項垂れます。
「……その方、堅固でお過ごしですか」
【元気ですね。「永遠の0歳児」という感じで】
「――永遠の0歳児?」
【春●部の――し●ちゃんの妹さんです】
「あの『ひま』ちゃん?!」
ひまわりちゃん→出家、がどうにも繋がらない……。
経緯には非常に興味をそそられますが。
まあ。
坊様もエロエロ、人生もエロエロ。
嘗て、ジュンイチロウさんも国会でそんな風な答弁を――。
軽く俯いて頬を染める横顔を見ながら、
「ふふ。和田氏も人の子ということで(?)」
【和田氏……ああ、ごめんなさい、私の名は和田ではないのです。エミシと――】
「個人情報を明かす必要は――って、え? エミシ? えっ、坂上田村麻呂……? 違うか?」
入店時とは打って変わって、暫し和やかに歓談したのち、
【本日はありがとうございました。いきなり情けない姿を曝しまして。お恥ずかしい】
「いえいえ。お疲れ様でした」
【あまり歌に執らわれず、自由にやってみようと思います。ローンもあって中々大変ですが】
「左様で」
【おみくじをちよと値上げすれば……原材料高騰の折――】
「おみくじ関係ないよね?」
来年の夏には、向日葵の咲き誇る(という規模でもないかも)お寺が、ちょっとした観光名所になったり――ならなかったり?
「ゴッド・ブレス・ユー」
いっとき暑さを忘れ、幾分涼やかな心持ちで言葉を送ったのでございます。
それにしても……秋が待ち遠しいのですよ、お母さま。