天王高校の生徒が、宮凪くんの写真を持っている。こちらを向いて、優しく微笑んでいる。
 じわりと目頭が熱くなって、いろんなことを思い出す。


『したいことも欲しいものも、その時叶えておかないと、あとで後悔するかもしれないだろ』

『蛍が見てる世界を、俺も経験してみたいなーって』

『蛍が来てくれて、俺の居場所はここじゃねぇって吹っ切れた』

『蛍だけ、特別な』


《死にたくない》


『あんなすげぇ音楽とステージで歌えるとか、夢にも思わなかった』

『本物の、蛍も……見よう。約束、たくさん、あった方が、頑張れる……気がする』


《ほたる ガンバレ》


 だんだんと(のど)の奥が開き、伸びやかに声が出た。
 練習では上手く歌えなかったところが、今はみんなとひとつになっている。
 間奏が終わり、眞柴さんのソロパートへ入ったとたん、歌声が消えた。私たちも、客席もどうしたのだろうとそわそわしている。

 声が聞こえないと知ってか、ピアノの伴奏まで止まってしまった。シーンと静まり返る会場で、今にも泣き出しそうな眞柴さんが見える。
 一生懸命歌おうとして、掠れて出ない声。その光景が、宮凪くんと重なった。

『一緒の、高校……行こう。……約束、たくさん、あった方が、頑張れる……気がする』

 小さく息を吸って、音のない世界に声を放つ。最初は弱々しかったけど、だんだんと伸びやかに広がっていく。

「……たとえ〜離れていても 心はひとつ〜 僕らの時間は 色褪せない〜」

 気づいたら、私はソロパートの部分を歌っていた。

 追うように指揮者が手を上げ、伴奏が流れ始める。合唱は、何事もなかったように再開して、大サビの部分で大迫力の盛り上がりを見せた。
 涙をこらえながら、必死に歌い続ける。
 もっと歌いたかった宮凪くんの分まで、空へも声が届くように。

 途中のハプニングはあったものの、聖薇女学院高等学校の合唱は、エンターテイメント性があったと高評価をもらえた。