放課後、帰りの支度をしているところ、肩を叩かれた。曇り空とは似合わない顔をして、真木さんが耳打ちする。
 さっそく、宮凪くんの情報を掴んだと言うのだ。

「……ほんとっ⁉︎」

 飛び出た自分の声が想像以上に大きくて、周りから注目を浴びた。真木さんと仲の良い子たちの視線が痛い。

「今送ったから、あとは頑張んなね」
「あ、ありがとう!」

 待っていたクラスメイトたちが、不思議そうにこちらを見ながら、戻った真木さんと帰って行った。

 一人残った教室で椅子に座る。すぐにココアトークを開き、昼休みに交換した真木さんの名前が表示されていることに、なんとも言えない胸の高鳴りが込み上げた。
 送られて来たのは、SNSのユーザー名と『宮凪空(みやなぎそら)』という名前。隣のクラスに、宮凪くんと同じ小学校だった人がいて、姉同士が繋がっていると教えてくれたらしい。

「……お姉さんがいたんだ」

 投稿しているのは、スイーツか動物が多くて、宮凪くんに触れたものはなかった。
 話すことが苦手な私でも、文字でなら思い切ることができる。そう自分に言い聞かせながら、お姉さんへダイレクトメールを送った。何度も打っては消してを繰り返して、なんとか読める文章になったと思う。

 返事が来たのは、家へ着いて明日の準備をしている時だった。絵文字や顔文字もなく、そっけない文字が連なっている。その丁寧な言葉遣いは、決して悪い印象ではなかった。

『はじめまして。かなり迷いましたが、あなたが真面目そうなのと、本当に友達なら知ってもらいたいと思って送ります』

 一緒に貼られていたのは、住所と県病院の名前。

『海は今ここにいます』

 スマホが手からすり抜けて、床に転がった。最悪な想像が頭を過ぎる。やだやだと首を振りながら、震える指先を胸に当てた。

 ──生きてるって感じする。

 いつかの台詞を思い出して、目頭が熱くなる。座り込んだズボンに、水玉のようなシミがこぼれて広がっていく。

 どうかお願い。宮凪くんから、笑顔を奪わないで下さい。