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「蛍に、話したいことがあるんだけど」

 いつものように、放課後の海賊戦で落ち合ったとき、宮凪くんが神妙な面持ちで口を開いた。なにかある。ごくりと喉を鳴らし、次に出てくる言葉に覚悟した。

 真っ先に頭に浮かんだのは、蛍病のこと。病状があまりよくないとか、もしかしたら、治らないと言われるんじゃないか。
 次に思ったのは、もう会えないと拒絶されるのかもしれない。彼女ができたから、私がどんくさいことに嫌気がさして。理由なら、いくらでも出てくる。

「歌作ってみたいって言ったら、蛍、協力してくれる?」

 少し照れくさそうにしながら、宮凪くんが私を見た。

「……ウ……タ?」

 思いがけない言葉に、気の抜けたようなマヌケな声が出る。
 そして、すぐに先日の会話を思い出した。弾き語りの人を見て、宮凪くんが好きな曲について話してくれたときのこと。

 ── 俺もいつか、あんな曲作ってみたいって。

 いきいきとした場面が、鮮明に蘇ってくる。

「も、もちろん! でも、私なんかに手伝えること、あるかな? 全然、音楽の知識なくて」
「それは心配ないよ。今は、けっこう簡単に作れるんだ。ほら、たとえばこうゆうのとか」

 スマホ画面に映されたのは、音楽作成アプリだった。コードを打ち込んだり、鼻歌からメロディを作り出してくれるもの。いろんな楽器の音を使うことができて、初心者が曲を作るのにオススメらしい。

「たまに使ってるんだけど、なんかパッとしねぇんだよなぁ。ぜっんぜん響かねぇの」

 いくつか流してくれた曲調は、どれもよくできていた。プロの曲だと言われたら、信じてしまうほど完成度は高い。音楽ど素人の私だから、そう感じたのかもしれないけれど。
 だけど、感動があったかと聞かれたら、うなずける自信はない。宮凪くんが納得していない理由は、なんとなく理解できた。
 シャキシャキとスマホを操作しながら、宮凪くんはメロディを止めて。

「で、蛍に頼みたいのは、歌詞の方」
「えっ、言葉ってこと?」
「そう。一番初めに、俺がメッセージ残したときのこと覚えてる?」

 私たちが出会うきっかけになった手紙だ。習慣で貼り付けていたメモ用紙に、小さな文字で『友達になりませんか?』と付け加えられていた。
 初めてもらったその言葉があまりに嬉しくて、私は返事をしたの。忘れるわけがない。

「詩が書いてあっただろ? あれ、すっげぇいいなって思ったんだ。この人と話してみたいって。だから、蛍の詩を使わせてほしいなって」