いきなり、宮凪くんが咳き込んだ。
 止まらなくて、とてもつらそう。背中をさすったり、なにかしてあげたいけど、できるわけない。

「だ、大丈夫? 風邪……?」
「むせただけ。たまに、急にあるんだ。もう平気」

 そう宮凪くんは呼吸を落ち着かせて、カバンから取り出したペットボトルのフタを開けた。
 ゴクゴクと動くのどぼとけの形がキレイで、またドキドキする。

 ──あれ? 水を飲んでいるのに……。

「光ってない」

 目の前のきょとんとした瞳で、ハッとする。
 私ったら、なんてことを口走ったの!

「あ、ごめ……! 不思議で、つい」

 ── あんま知られたくねぇんだよな、これ。特殊だから、みんな興味本位でじろじろ見るんだ。

 宮凪くんが気にしていることを、無神経に。

「体の中へ入る分には、反応ないんだ。光るのは、こうやって、皮膚に当たった部分だけ」

 言いながら、水を垂らした宮凪くんの手首が、キラキラと輝き出す。月灯に照らされて、とてもキレイ。

「おもしれぇだろ。俺の特殊能力だからさ。蛍だけ、特別な」

 そうシーッと人差し指を立てる。不安を吹き飛ばす笑顔がまぶしくて、私は小さく笑い返した。
 どうして、宮凪くんが嫌がると決めつけたのだろう。触れてほしくないだろうと、思い込んだのだろう。
 たくさん一緒にいたのに、知らなかった。わかった気になっていた。病気のことも、宮凪くんのことも。

 もっと、知りたい。もっと、近づきたい。もっと、頼りにされたい。

 こんな気持ちになったのは、生まれて初めて──。