聖薇(せいら)女学院高等学校は、この辺りではお嬢様学校と呼ばれている。お嬢様と聞くと、品よくお茶でも嗜むイメージだけど、実際のところは違う。
 蓋を開けたら、普通の女子高と同じ。暑ければ下敷きでスカートの中を仰ぐし、下品なことも言う。

 大人しい子ばかりなら仲良くなれる。そんな軽率な考えは、どこの学校へ通っても上手くいかなかっただろう。自分から話しかける勇気のない私は、気付けばみんなを遠ざけて孤立していた。


「これからユウちゃんたちと家でカラオケするんだけど、馬渕(まぶち)さんたちもどう?」

 下校の支度をしているところに、後ろから声がして思わず固まった。はつらつとしたよく通る声は、クラスのムードメーカーである真木さんだ。短い髪がボーイッシュで、いつも女子に囲まれている。

 教室に残っている何人かに話しかけていて、あとは私だけ。少しドキドキしながら、誘われるのを待っていた。

 名前を言いかけたところで、「春原さんは、カラオケとか苦手なんじゃない?」と他の子の言葉が重なる。気を遣わせるだけだと促された真木さんは、そのままクラスメイトと帰って行った。

「……そんなこと、ないんだけどな」

 カバンを握る手に力が入る。
 自分も行きたいと言い出せなかったことが情けなくて、また心に小さな言い訳を積らせた。
 誘われても、人前で歌う勇気なんてないくせに。ノリの悪い子だと思われなくて、よかったじゃない。

 文字ではスラスラと書ける会話も、声にするのは難しい。ずり落ちていく重いカバンを持ち直して、一人残された教室を後にした。