「俺の抹茶も食っていいよ」
「……それだと、協力どころか、私が満足して終わっちゃう」
「うーん、すっげぇ甘いのが好きってわけじゃねぇし。少し食えたら、それでいいかな」
「えっ、スイーツが目的じゃなかったの?」
「それは、こんくらいかな」

 指で作られたコの字が想像以上に小さくて、私は首をかしげた。

「じゃあ、宮凪くんのやりたいことって……なに?」

「えー?」と腕を組んで、宮凪くんがほくそ笑む。手招きされて少し耳を寄せると、距離感もないほど近くに綺麗な顔が飛び込んできた。


「──デート」

 耳を押さえながら素早く離れるけど、さっきの台詞が耳鳴りのように流れている。
 聞き間違いじゃないよね? 今、たしかに。

「一生のうちに、一回はデートしてぇなーって」

 空耳でないと答えるように、はっきりと告げられた。
 その単語を意識したとたん、自分の体じゃないみたいに動きが不自然になる。ティラミスにアイスティーのストローを刺したり、宮凪くんのミルクコーヒーを飲んだり。
 頭が真っ白になるとは、こういうこと。とりあえず手を動かしているだけ。何も考えられていない。

「いいけど蛍、いったん落ち着け?」
「だ、だって、そんなの、他に頼める子、いる……よね?」
「いねぇよ」
「うそ、だって、すごくモテそうなのに」
「俺、あんま学校行ってねぇから浮いてんだ。いろいろ」

 休んでいるのは、ただサボっているだけ? それとも、他に理由があるの?
 青い光が脳裏を掠めるけど、宮凪くんは微塵も関係ないような口ぶりで抹茶のティラミスを頬張った。

「蛍しか適任いねぇの。だから、今日はデートのつもりでいて」

 キラキラしたまっすぐな眼差しに、頷くことしかできない。
 私なんかで、そんな大役が務まるのか。浮かびかけた問いを掻き消すくらい、今は胸の高鳴りだけが頭に響いていた。