「蛍、腹でも痛いの?」

 心配そうな声色に、慌てて首を振った。
 今日は宮凪くんをサポートするために来ているのに、私が暗くなってどうするの!

 気を取り直して前を向くと、オシャレなスイーツ店が列を成していた。ほとんどの客が女の子で、ちらほらとカップルらしき人たちもいる。
 甘い誘惑の匂いがするけど、宮凪くんは興味ないだろうな。通り過ぎようとして、ぐっと手を握られた。
 えっ、と見上げたまま、列の後ろに連れられる。

「なら、ここ入ろ」

 有無を言わさぬという感じの少し強引な手は、離れる様子がない。どうしたらいいのか分からなくて、待ち時間はずっと手を繋いだままだった。
 手汗の心配をしながら、店内へ入ってすぐ角の席へ座って、メニューを開く。
 なんとも思っていない表情の宮凪くんに、戸惑ってしまう。緊張で震えているのは、私だけなのかな。

「蛍は何食いたい?」
「……えっ、どうしよう。どれも、おいしそうだから」

 おいしそうなのは事実だけど、内容が全く頭に入って来ない。実を言うと、こんなオシャレなスイーツ専門店へ入るのは初めてで、さらに緊張度が増している。
 だよな、とメニューと睨めっこをする宮凪くんは、思いのほか楽しそうだ。

 やりたいことが、スイーツを食べること?
 疑問に思いながらも、それぞれが注文をして十五分ほどが経った。混んでいるから時間がかかるのだろうけど、朝食を少なめにしたせいか、お腹が鳴りそうで必死に止めている。

「やっぱ体調悪い?」
「ち、がうの……お腹が」

 被せるようにぐぅぅと低い音が響いたタイミングで、真っ赤な苺のティラミスが運ばれて来た。
 顔を上げられないでいると、向い合わせからククッと笑いを堪える声がしてくる。

「そんな腹減ってたんだ」
「……笑わないでよ」

 意味のない手がお腹を押さえたまま、力なく語尾は消えていく。
 まだ頬を緩めているから、こっちは頬が膨らみそうになる。あの可愛げのない音を、宮凪くんの記憶から消去したいよ。