何を言われているのか理解出来なくて、数秒経ってから。

「私の……時間?」
「俺のやりたいこと、叶えてくれるんだろ? だから付き合って」
「あっ、それはぜひ、協力させてください!」

 頭を下げると、プッと吹き出す声がした。

「急にかしこまりすぎ。じゃあ、十時に駅で待ち合わせな」

 会う約束をして、私たちは公園を出た。夕焼け雲が消えて、空は夜になる準備をしている。
 振り向きかけた顔を戻して、少しだけ歩幅を大きくした。

 もしも、宮凪くんが背を向けていたら、胸が張り裂けてしまいそうだから。
 もしも、宮凪くんと目が合ったなら、心臓がもちそうにないから。
 傷付かないために、これ以上深入りしてはならない。

 宮凪くんの役に立つために、任務を遂行することだけを考えなければと言い聞かせて、土曜日を迎えた。
 最寄り駅のトイレの鏡に立って、かれこれ十分近くは経過している。何度覗き込んでも変わらない前髪を直して、もう一度リップを塗った。
 服装にも気を使った。中学生のファッションをひたすら検索して。

 今日は、宮凪くんのやりたいことに付き合うだけ。舞い上がってはいけない。

 待ち合わせている駅中のワッフル店の前には、すでに宮凪くんの姿があった。薄手のパーカーにラフな格好で、よく似合っている。
 おはようと挨拶を交わしてから、目的地へ向かう最中、じっと見られている気がして落ち着かない。

「な、なにか……変かな?」

 宮凪くん越しに、ショーウィンドウにチラリと映る自分の姿。コーディネートがおかしいのか、それとも巻いた髪を結んだのが子供過ぎたか。マイナス思考ばかりが連なって、足が重くなる。

「蛍って、そうゆう服着るんだと思って。この髪の毛自分でやったの?」

 くるんと跳ねた毛先がつままれて、指先からするりと落ちた。

「えっ……うん。慣れてないから、上手くできてないけど」
「へぇ、可愛い。似合ってる」
「……あ、りがとう」

 意識しないようにと思っても、だめ。恥ずかしさ以上に、顔のにやけが込み上げて来て、そっと下を向いた。
 褒められ慣れてないから、反応に困る。素直に喜んでいいものか、サラッと流した方が正解なのか。
 今まで気にしたことがなかったけど、宮凪くんって女の子の扱いに慣れている。やっぱり、学校でもモテるんだろうな。

 すれ違う女の子が振り向いて、こそこそ話している。「かっこいいね」「モデルさんみたい」と聞こえて、私はさらに顔を伏せた。
 ショーウィンドウに映る私たちは、見た目からして正反対で、肩を並べていることが不思議になる。他の人にも、思われて当然だ。