あと、10分も経たないうちに、10代という乙女が終わる。男性も女性も、皆、心の中は乙女なのである。どこか可愛らしさがあり、憎たらしさもある。その乙女が、600秒後に散る。

生まれてから、19年間、死にたさを飼い慣らしたあの日も、生きたいと思えたあの瞬間も、全ての思いが9分で覆る。覆ると思っているだけで、そうなるという確証はない。

今、人生を振り返ってみると何もしていないと気付く。中途半端に生きて、周りの意見に流されながら生きて、ちょっと抵抗してみようと自殺するふりをした過去だけが残る。あと、8分。

7。小さな頃に「ラッキーセブンだ。運がいい」と笑った記憶ならある。そんなしょうもない、数字ごときに運を任せられた歳の自分を醜く思う。残り、420秒。

悪魔の数字として知られる、”666”を思い浮かべる。あと少しで大人だっていうのに、まだこんな、幼稚な考えだけが脳内を過る。あと6分後には、そんなことも考えられないほどに超越した大人になれているのだろうか。

そうだ、20歳になったら何をしよう。夜中までゲームセンターにいる?独りぼっちでマクドナルドに行く?うーん。ネットで話し始めた人に「会いたい」と送ってみようかしら。残り、5分。

あまりワクワクしないのはどうしてだろう。歳をとることが、悲しく感じ始めたのは、いつからだろう。もう、私、20歳になるのに。何も得ていないのに。周りだけが幸せになっていくように見えて、しんどい。残り、4分。

私は今から、カップラーメンにお湯を注ぐ。そう、誕生日を迎えれば、食べても良い合図。あくまで平然を装って。誕生日如きで騒ぐような大人にはならないのよ、私。残り、3分。

なんだか外が、騒がしい。0時前だっていうのに。いや、私の心の中にいる”過去の自分”が最後の抵抗をしてきているのだろうか。そんなのにはもう、揺るがないのよ、私。残り、2分。

「誕生日おめでとう」という、少し早めのメッセージが目に付く。そう、LINE。よかった。”誕生日おめでとう”と私をメンションしてストーリーに載せてくれる友達がいなくて。残り、1分。

秒針がチクタクと部屋に鳴り響く中、私は、久しぶりに、親に「今までありがとう。」とLINEを送った。が、親は私の誕生日なんて覚えていないのだろうか。「どうしたの、また自殺でもしようとする気?」と返信が来た。

それと同時に、0時を迎えた。