それからというもの、あっという間に時は過ぎていった。
「おじさん!小学校卒業したよ」
卒業証書を持ったランドセル姿の幸子は言った。
背丈も随分と伸び、二人での暮らしもやっと慣れてきたというところだ。
これでランドセル姿を見るのも最後か。と思うとなんだか感慨深かった。
「そうか。これから中学生か。長かったような短かったような……」
「泣いた?」
「まだ、泣けないな」
「部活の最後の大会。100m走優勝だ!ねぇ、どうだった?」
中学生活最後の大会。幸子は陸上部のエースとして最後の意地を見せた。
あれからさらに身長も大きくなった。伸びた髪を後ろで一つに結び、トロフィーと賞状を持って段に上がる幸子をスマホで撮影し、ついロック画面に設定してしまった。バレたら怒られるだろうか?
「よくやった。おめでとう。自慢の娘だよ」
「ありがと!どう?泣けた?」
「まだ、泣けないな」
「見て!高校の制服。可愛いでしょ。受験頑張って良かった〜」
中学校の制服はセーラー服だったのに比べて高校はブレザーへと制服が代わり幸子はテンションが上がっている様子だった。幸子は陸上を本気で続けたくて少し難易度の高い高校へ行くため受験勉強に励んだ。俺は幸子の頑張りをずっと傍で見ていたから知っている。
よく頑張ったな。
「おめでとう。似合ってるよ。頑張った甲斐があったな」
「泣いた?」
「まだ、泣けないな」
「最後、あとちょっとだったのにね」
高校生活最後の大会。高校でも陸上を続けた幸子は惜しくもインターハイ出場を逃してしまった。
悔し涙で顔を歪ませ、自分の足を拳で何度も何度も殴りつけている姿が見てられず、幸子のことをそっと抱きしめた。君が頑張っていたのは知っているよ。
「惜しかった。本当に」
「……泣いた?」
「泣いてない。でも、俺も悔しいよ」
「今日からお互い一人だね」
大学進学を機に幸子は家を出て一人暮らしをすることが決まった。引越しのための作業も順調に進んでいるようだ。陸上を辞め、幸子は髪を背中まで伸ばした。黒くしなやかで本当に綺麗な髪だった。
幸子が離れていくのは寂しかったけど、幸子がその大学に行きたくて寝る間も惜しんで勉強していたのを知っているからそんなことは言えなかった。だから、今のうちは甘やかしておこうと映画に誘ってみたり、ご飯に幸子の好きなものを作ってみたりした。
でも、寂しいものはやはり寂しい。
「偶には帰ってきてもいいんだからな」
「泣きそう?」
「馬鹿言え、泣くか」
「ねぇ、おじさん。私今日で結婚しちゃうよ」
幸子はメイクルームで純白のドレスを着て俺に言った。幸子のふんわりと巻いたその長い黒髪には白に輝くティアラが刺さっていた。
うん。知ってるよ。本当はまだまだ渡したくなかったけど、幸子が幸せそうな顔でパートナーを連れてきた姿を見たらそんなこと、俺には言えなかった。
相手の人も素直そうな誠実な男性だったし、いい男を捕まえたな。
本当におめでとう。幸子。
今日を本当に楽しみにしていたよ。
「幸せになってくれよ」
「ねぇ、泣いた?」
「泣かないよ」
幸子はふふっと笑った。
「結局、私がおじさんのこと泣かせるられる日は来ると思う?」
「……さぁ。きっと、俺の涙はもう枯れてるよ」
「そっか」
幸子はそう言って席を立った。
「ほら、おじさん。式が始まるよ。ちゃんと私のこと見ててね」
そう言って式が始まった。
「おじさん!小学校卒業したよ」
卒業証書を持ったランドセル姿の幸子は言った。
背丈も随分と伸び、二人での暮らしもやっと慣れてきたというところだ。
これでランドセル姿を見るのも最後か。と思うとなんだか感慨深かった。
「そうか。これから中学生か。長かったような短かったような……」
「泣いた?」
「まだ、泣けないな」
「部活の最後の大会。100m走優勝だ!ねぇ、どうだった?」
中学生活最後の大会。幸子は陸上部のエースとして最後の意地を見せた。
あれからさらに身長も大きくなった。伸びた髪を後ろで一つに結び、トロフィーと賞状を持って段に上がる幸子をスマホで撮影し、ついロック画面に設定してしまった。バレたら怒られるだろうか?
「よくやった。おめでとう。自慢の娘だよ」
「ありがと!どう?泣けた?」
「まだ、泣けないな」
「見て!高校の制服。可愛いでしょ。受験頑張って良かった〜」
中学校の制服はセーラー服だったのに比べて高校はブレザーへと制服が代わり幸子はテンションが上がっている様子だった。幸子は陸上を本気で続けたくて少し難易度の高い高校へ行くため受験勉強に励んだ。俺は幸子の頑張りをずっと傍で見ていたから知っている。
よく頑張ったな。
「おめでとう。似合ってるよ。頑張った甲斐があったな」
「泣いた?」
「まだ、泣けないな」
「最後、あとちょっとだったのにね」
高校生活最後の大会。高校でも陸上を続けた幸子は惜しくもインターハイ出場を逃してしまった。
悔し涙で顔を歪ませ、自分の足を拳で何度も何度も殴りつけている姿が見てられず、幸子のことをそっと抱きしめた。君が頑張っていたのは知っているよ。
「惜しかった。本当に」
「……泣いた?」
「泣いてない。でも、俺も悔しいよ」
「今日からお互い一人だね」
大学進学を機に幸子は家を出て一人暮らしをすることが決まった。引越しのための作業も順調に進んでいるようだ。陸上を辞め、幸子は髪を背中まで伸ばした。黒くしなやかで本当に綺麗な髪だった。
幸子が離れていくのは寂しかったけど、幸子がその大学に行きたくて寝る間も惜しんで勉強していたのを知っているからそんなことは言えなかった。だから、今のうちは甘やかしておこうと映画に誘ってみたり、ご飯に幸子の好きなものを作ってみたりした。
でも、寂しいものはやはり寂しい。
「偶には帰ってきてもいいんだからな」
「泣きそう?」
「馬鹿言え、泣くか」
「ねぇ、おじさん。私今日で結婚しちゃうよ」
幸子はメイクルームで純白のドレスを着て俺に言った。幸子のふんわりと巻いたその長い黒髪には白に輝くティアラが刺さっていた。
うん。知ってるよ。本当はまだまだ渡したくなかったけど、幸子が幸せそうな顔でパートナーを連れてきた姿を見たらそんなこと、俺には言えなかった。
相手の人も素直そうな誠実な男性だったし、いい男を捕まえたな。
本当におめでとう。幸子。
今日を本当に楽しみにしていたよ。
「幸せになってくれよ」
「ねぇ、泣いた?」
「泣かないよ」
幸子はふふっと笑った。
「結局、私がおじさんのこと泣かせるられる日は来ると思う?」
「……さぁ。きっと、俺の涙はもう枯れてるよ」
「そっか」
幸子はそう言って席を立った。
「ほら、おじさん。式が始まるよ。ちゃんと私のこと見ててね」
そう言って式が始まった。