巫山家と巫川家の先祖、カンナギを魂送りした天音と邪馬斗。
 その瞬間、神鏡が強い光が放ち、元の姿を取り戻す。
 光が止むと、神鏡の前に艶やかな巫女姿の女性が現れた。

「……もしかして、アマノウズメ様……?」

 天音が絞り出すような声で尋ねると、女性は厳かに頷いた。

「そうじゃ……我が末裔よ」

 アマノウズメは天音と邪馬斗を見つめた後、本殿の外に目を向けて優しく声に出した。

「もう良いぞよ……。隠れる必要もなかろう……」

 天音と邪馬斗は振り返り、本堂の入り口を見る。
 入り口の影から、少し照れくさそうに男性が姿を表した。

「さ、さ……さ……猿田先生!?」

 天音はその男性を見て叫んだ。
 姿を表したのは、担任の猿田先生であった。

「先生、何でここに!?」

 邪馬斗は驚きすぎて、開いた口が塞がらない状態であった。

「ごめんね、ビックリさせちゃって」

 猿田先生は頭を掻きながら言った。

「あ……、私服姿の先生も超イケメン……」
「おい。今それどころじゃねえだろ!」

 天音が猿田先生に見とれて言った。
 思わず邪馬斗は、ツッコミを入れる。
 少し考えると、邪馬斗は真顔で猿田先生を見た。

「もしかして、学校で羽織姿の霊と一緒に居た男性って……猿田先生だったんだな」
「えぇー!」

 邪馬斗の推測に、天音は驚いて叫ぶ。
 その様子を見た猿田先生は、笑いながら言った。

「邪馬斗君、正解だね。そうだよ。僕はこのアマノウズメの旦那だった、サルタヒコの生まれ変わりなんだ。マラソン大会の時に、君達が魂送りした霊。あの霊に気づかれちゃったけどね。でも、君達がゴールする前には正体隠すことが出来たけど」
「何で正体を隠してたんですか?」

 邪馬斗は言った。

「う~ん。君達が後継者として成長する為かな? あと、君達は今までの後継者の中でも生まれつき強い霊力の持ち主でねー。試練を与えた方が、より霊力を上げることができるんじゃないかな?って思ってねー。それに、最後の儀式にはそれなりの霊力を使うし。今となっては充分過ぎるくらいの霊力を持つようになったようだけどね」
「その最後の儀式って、奉納の舞のことですか?」
「そうだね~」

 猿田先生と邪馬斗が話している横で、天音がワッと泣き出す。
 そんな天音に気づいた邪馬斗が、心配そうに尋ねる。

「てか、何でお前は泣いてるんだよ」
「だって……。先生が結婚してたなんて……」
「そこ?」

 天音の泣いている理由を知った邪馬斗は呆れてしまう。

「あ! そうだ! アマノウズメ様! 私に奉納の舞を教えて下さい!」
「立ち直るの早っ! いや、俺にも奉納の舞の笛を教えて下さい!」

 天音と邪馬斗は、アマノウズメに頭を下げて言った。

「良いぞ。そのために来たのじゃからな。そなた達の意志の強さは、今までの魂送りを見て分かっておる。舞はわらわが、笛はサルタヒコが教えようぞ」
「先生、笛できるんですか?」

 邪馬斗が驚いて言った。

「出来るよ~。アマノウズメの舞では、僕が笛を吹いていたんだからね~」
「今の先生からは想像できないな……」

 邪馬斗は猿田先生を見ながら言った。

「では始めるとしよう」

 掃除を済んだ本堂で、天音はアマノウズメから、邪馬斗は猿田先生から奉納の舞の舞と笛を教わった。

「はぁ、はぁ……。きつ! 魂送りとはかなり違いますね……。魂送りはゆっくりで優雅な舞なのに、奉納の舞は激しくて足を鳴らすから疲れる……。あと、扇子の使い方も慣れないし。しかも足鳴らすことが多いから足メッチャ痛い……」

 天音は息切れをしながら床に座り込みながら言った。
 そんな天音に、アマノウズメは優しく語りかけた。

「そうじゃな。足を踏み鳴らすのは地を固める意味がある。鈴は邪気を払う、扇子は風を起こし、身体全体で自然を表すのじゃ。お主の得意なダンスに通じる舞じゃよ。気張って覚えるのじゃ」
「形は覚えられても、体力が……。ところで、この神鏡、かなり不思議な力持っていますよね」

 天音は神鏡を眺めながら言った。

「うむ。わらわの霊力を継いでおるからの。なにしろわらわが作ったんじゃからな」
「え! そうなんですか!? だから不思議な力を宿っているんですね……」

 神鏡の作者が神様だったと知り、目を丸くして驚く天音。

「わらわがいなくなった後も、魂が迷うことなく常世へ行けるよう、霊力を分け与えて神鏡を作ったのじゃ」
「すごいですね。この地元の人達にとって巫神社あの例祭と神楽は身近なもので、毎年楽しみにしてくれている人達がたくさんいますよ。この巫神社と神楽があることに感謝します」
「そう言うてもらえるとありがたい。毎年の例祭は見守っておったからの。人々の歓喜は感じておった。さ、時が惜しい。仕上げに取り掛かるとしよう」
「はい!」

 一方、邪馬斗は猿田先生に笛を教わっていた。

「指が攣りそう……。結構リズムが早くて指使いも難しいですね……。それに息が続かない」
「魂送りとは印象が全く違うでしょ? 頑張って~」
「そこはいつもの先生のままですね」
「いや~、今まで大変だったんだよ? 魂送りのやりすぎで倒れたときもそうだったし、君達が迅速に魂送り出来るように早退させたりとかもしたし……」
「今思えば、心当たりあります……。本当にご迷惑おかけしました」

 邪馬斗は心当たる場面を思い出すと、申し訳ない思いにかられる。

「まぁ~、結果オーライだから良いじゃないか。僕たち以上の霊力を上げることが出来たんだから! さ、おさらいといきましょうか」
「はい、引き続きご指導よろしくおねがいします!」

 天音と邪馬斗は、集中して特訓に励んだ。

「サルタヒコ、どうじゃ? こちらはもう大丈夫じゃ」
「こっちも完璧だ」

 気がつくと、空には夕焼けが見えていた。

「あ! もう夕方なの!? 嘘でしょ、そんな!?」

 天音はスマホで時間を確認して言った。

「やべ! じいちゃんに何も言ってなかった!」

 その時であった。

「あまねー! 何かあったのかい!? おーい!」
「やまとー! どこじゃー!?」

 外から、鈴子と義興が天音と邪馬斗を探す声が聞こえてきた。
 まもなく、本堂に鈴子と義興が入ってくる。

「いつまでも戻ってこないから……あら!」
「どうしたんじゃ……なんと!」

 鈴子と義興はアマノウズメに目を向けて、驚いて固まってしまった。

「神様……もしかしてアマノウズメ様では……」

 やっと口に出した義興に、アマノウズメは微笑みながら頷いた。
 鈴子と義興はアマノウズメに手を合わせて拝んだ。

「ありがたや~、ありがたや~」

 そんな鈴子と義興を見て不思議そうに首を傾げてた天音と邪馬斗。

「後継者の力が無くなって、今まで霊が見れなかったおばあちゃん達なのに、なんでアマノウズメ様のことが見えてるの?」

 不思議そうに言った天音に、猿田先生が笑う。

「アメノウズメの霊力が影響してるんだよ」
「神様の力って本当に凄いですね……」

 猿田先生の話を聞いた邪馬斗は呆然として言った。

「我が末裔たちよ。永きこと神楽を継承してくれたことに感謝する」
「ありがたいお言葉……。しかし、なぜ今お姿をお見せになられたんでしょうか?」

 義興がアマノウズメに言うと、アマノウズメは天音達の方を見て言った。

「この通り、神鏡は元に戻った。しかし、神鏡に奉納の舞を捧げなければ力は戻らぬ。今、サルタヒコと共に奉納の舞を継承したところじゃ」
「サルタヒコ?……」

 鈴子と義興は猿田先生に目を向けた。

「ど~も~。天音さんと邪馬斗君の担任の猿田と申しますぅ~」
「いつも天音がお世話になっております。……サルタヒコとは……」

 鈴子が猿田先生に挨拶をしていると、義興がハッとして叫んだ。

「巫山の婆さんや! サルタヒコとはアマノウズメ様の旦那様……。確か、巫川家の笛の神……」
「なんと!」
「私は生まれ変わりです。なので今はただの人間です」

 驚く鈴子と義興に、ニコニコと笑いながら猿田先生は説明した。

「さあ、後継者たちよ、神鏡に奉納の舞を捧げるのじゃ」
「はい! 天音……」
「うん! やるよ! 邪馬斗」

 天音は畳んでいた扇子を縦に振って広げ、邪馬斗は笛を吹く。
 リズムが速くて力強い、激流が流れるような音色を奏でる笛。
 それに合わせて、舞手は足と力強く地に鳴らし、鈴の音と扇子で起きる風は、全てを包み込む優しい暖かさも感じられる。
 見たことのない舞に、唖然として見ている鈴子と義興。

「これが奉納の舞……」
「なんともはや……」

 天音の奏でる鈴の音で舞が終わると、神鏡が強い光を放った。
 同時にアマノウズメも光に包まれる。

「また、ゆっくり休めるな」
「え? どうゆうこと?」

 猿田先生がアマノウズメに向かって呟く声が天音に聞こえた。
 アマノウズメは光に包まれながら、静かに話し始めた。

「これで神社の力も、神鏡も元通り。我が末裔たちよ、これからも御霊達が無事にあの世に行けるよう、巫神社と巫神楽を後世に継承するのじゃ。わらわはこれからも見守っておるでな」
「あぁ……ありがたや~」

 アマノウズメの言葉にまたしても手を合わせて拝む鈴子と義興。
 続けてアマノウズメは猿田先生に目を向けて、優しく語りかけた。

「今後も天音と邪馬斗のことを見守ってやるのじゃ。よろしく頼むぞよ」
「あぁ。また静かに見守っていくよ。君と一緒にね」

 猿田先生が声をかけると、にこやかに笑ってアマノウズメはゆっくりと消えてしまった。
 こうして、神鏡は元通りになり、さまよう霊達も見えなくなった。いつもの日常が天音と邪馬斗に戻ったのであった。
 そして、今年も巫神社の例祭の日がやってくる……。