かつて、巫山家と巫川家は『巫家(かんなぎけ)』という一つの家であった。
 巫家は代々巫神社と巫神楽を継承してきた一族である。
 時代の流れや戦乱により、一族は幾多の存亡の危機を迎えた。
 それでも巫神社を守り、巫神楽を継承してきた。

 ある時期、どうしても避けれないほどの継承危機にさらされてしまった時があった。
 当時の巫家の当主は巫神社と巫神楽を守るための思い切った決断をした。
 それが、巫山家と巫川家への分家であった。
 巫家の当主は、舞を継承する一族を巫山家、笛を継承する一族を巫川家と決めたのだ。
 神社を守るため、子孫を残すためには、当時ではそうするしかなかった。

 巫家のルーツは、巫神社に祀られているアマノウズメであると言われている。
 アマノウズメと、夫であるサルタヒコが巫神楽の始まりの神と言い伝えられていた。
 つまり、アマノウズメとサルダヒコは巫家の先祖ということになる。

 カンナギは巫神社と巫神楽の始まりを淡々と天音と邪馬斗に語った。

「……カンナギさんは、アマノウズメ様とサルタヒコ様に会ったことあるんですか?」

 邪馬斗は難しい顔をしながら言った。

「いいえ。神の世を遥かに過ぎてから、私は産まれたのです。霊力は始まりの神に近い強い力を持っていたと言われていますが……」
「そうなんですか……」
「あの、カンナギさんは、私達が同じくらいの霊力を持っていると言っていましたね。前に会った巫山家のご先祖様から、時代の流れによって霊力は衰退していると聞きました。なのに何で私達は大きな霊力を持つようになったんですか?」

 天音はカンナギに尋ねた。

「多分、修行と同じ原理だと思います」
「修行?」
「はいそうです。あなた達は魂送りをする毎に霊力が強まっていました。数を熟すと鍛錬されているということだと思います。それも始まりの神が祀られている巫神社の力なのかも知れませんね」
「やっぱ、ただの神社じゃないんだな……」

 邪馬斗は考えながら言った。

「あと、もう一つ大事なことがあります」
「なんですか?」

 カンナギは一つ深呼吸をしてから語った。

「私を魂送りをすれば神鏡は元通りになると言いました。しかし、そのままだと本当の完治とは言えません。神鏡が元通りになった後に、『奉納の舞』を神鏡に奉納しなければなりません」
「ほうのうのまい? そんな演舞あったっけ?」

 天音は邪馬斗に顔を向けて言った。
 邪馬斗は天音の顔を見て首を横に振った。

「そんなの聞いたこともないぞ」

 天音と邪馬斗は困り果ててしまう。

「知らないことも無理はありません。奉納の舞は、始まりの神。つまり、アマノウズメとサルタヒコしか知らない神楽なのですから……。当然、私も知らない演舞です」
「ご先祖様が知らない演舞って……」

 天音は落ち込む。

「奉納の舞って必要な儀式なんですか?」

 邪馬斗がカンナギに聞いた。

「そうですね。奉納の舞を捧げないと、神鏡に本来の力が戻らないと言われています」
「でも、もうこの世に居ない人に……。しかも神様なんて、どうやったら会えるのよ!?」

 天音は半分泣きそうになりながら言った。

「方法はあります」
「え? 神様に会えるの!?」

 邪馬斗は驚きながら言った。

「私を魂送りして神鏡の破片を全て集め、神鏡が元通りになった時、始まりの神はあなた達の前に現れることでしょう」
「それじゃー、カンナギさんを魂送りしてからが本番ってことね……」

 天音は決意をみなぎらせて拳を握った。

「ここまで来れたあなた達ならきっとやり遂げることができるでしょう。これからも、この巫神社と巫神楽のことを宜しくお願いしますね」

 カンナギは、天音と邪馬斗に深々と頭を下げた。

「大丈夫です、カンナギさん」
「私達は、後世に巫神社と巫神楽を継いでいく覚悟は出来ています。今まで魂送りしてきた霊達との約束でもあります。私達に任せてください!」

 天音と邪馬斗は凛々しい表情で言った。
 その表情にカンナギは微笑みながら涙をこぼす。

「ありがとう。さあ、私を送って下さい。あなた達の健闘を祈っています」

 天音と邪馬斗は、厳かに魂送りを始めた。
 カンナギは淡い光に包まれ、天へと登っていく。

『彷徨える御霊よ、安らかに眠りたまえ。幽世へ行き来世の幸を祈ろうぞ』

 舞が終わると神鏡は強い光を放ち始めた。

「眩しすぎる!」
「何なのよもー!」

 天音と邪馬斗は強い光に目を覆った。
 しばらくして光が弱まると、人影が見えてくる。
 天音のものと同じ鈴と白い扇を持った、きらびやかな衣装をまとった女性が、目の前に浮かんでいた。