「ちょっとすみません……。邪馬斗ちょっと!」
苦笑いをしながら天音は邪馬斗を呼んで、猿田先生を背にし、コソコソしながら聞いた。
「ねー邪馬斗聞いた? なんで注連縄の奥に入れたのかしら?」
「俺も思った……。反対側にも張られているはずなのに」
「知りたいことあるけど、根掘り葉掘り聞くのも微妙だよね?」
「まーなー……。変に思われるのも嫌だしな」
「私、憧れの先生に変に思われるの嫌だ!」
「お前は元から変だから安心しろ」
「ああん? なんつった?」
「いや……ごめんなさい。まだすねの痛みが取れていないので……。これ以上は勘弁して下さい」
「あの~」
「はい!!!」
コソコソ話していた天音と邪馬斗は、猿田先生の呼ぶ声に驚いて振り返った。
「もう下山できたし、休憩したお陰で足もだいぶ良くなったから、もし良かったらその木の枝あげようか? なんか欲しそうな感じだし」
「良いんですか!?」
思わぬご厚意に、天音と邪馬斗は声を揃えて言った。
「いいよ~」
「ありがとうございます!」
「ただの木の枝なのに、そんなに喜んでもらえるとは、散歩した甲斐があったよ」
猿田先生は笑いながら言った。
そして、ふと表情を改めて、猿田先生が尋ねてくる。
「ところで、君達はデートかい?」
「何でですか!?」
天音と邪馬斗は眉間にシワを寄せながら言った。
「だって、ナギの木の葉って縁結びのご利益があるんだよ? だからデートかなー?って思ってさー。青春は良いね~」
「だから、違いますって!」
「こんな乙女心が無いやつとデートとかあり得ないでしょ」
「乙女心あるし! 私だって、あんたみたいなデリケートの無い男とはデートなんてごめんよ!」
天音と邪馬斗は必死になって訴えた。
「それよりも、先生こそ何で一人でわざわざ山に散歩とか……。別に山じゃなくたって散歩できるところなんて沢山あるじゃないですか」
天音が猿田先生に聞いた。
すると今までニコニコと笑っていた猿田先生が急に寂しそうな顔になる。
何かを見つめるように、山の方に視線を向ける。
「う~ん。それはね、妻との思い出の場所でもあるからだよ」
その声は、普段の気の抜けた優しい声ではなく、どこか寂しさを感じられる声であった。
聞いたことのない猿田先生の低い声に、天音と邪馬斗は驚きを隠せない。
天音は、ハッとしたように大声を出した。
「ていうか先生! 奥さん居たんですか!? 初めて聞いたんですけど!」
天音の驚く声に我に返った猿田先生は、焦りながら辿々しく弁解する。
「い、いや! 独身だよ~! 僕、育成ゲームにハマってるんだけど……。二次元の奥さんの話だよ!」
「三十代の男性が二次元のキャラクターに恋愛を……。先生、三次元でもいい奥さんが出来れば良いですね……」
邪馬斗は、ぽんぽんと猿田先生の肩を叩きながら慰める。
すると、天音が泣きそうな顔をしながら言う。
「先生、イケメンだから校内でファンの女子生徒がいっぱいいるんですよ! 奥さんがいるとか、みんなガッカリしますよ!」
猿田先生が誤解を解こうとするも聞く耳を持とうともせず、ただただ天音の妄想は膨らむ一方であった。
「だから、独身なんだってば~。信じてよ~」
猿田先生が必死で訴えていると、邪馬斗が腕時計を見ながら天音に声をかけた。
「おい、天音! そろそろ戻らないと! じいちゃん達が待ってるぞ!」
「あぁー! そうだった! 早く帰って取り掛からないと! 先生! 失礼します! 明後日学校でまた!」
「先生、失礼します! さようなら!」
天音と邪馬斗は猿田先生に挨拶をして、走って家に帰って行った。
「やれやれ……。さ、僕も帰ろうかな」
走っていく二人を見送り、猿田先生も神社を後にした。
邪馬斗の家に帰ってきた天音と邪馬斗は、居間でお茶を飲んでいた鈴子と義興のところに行く。
「ただいまー! ナギの木、手に入れてきたよー」
天音は、ナギの木の枝を見せながら言った。
「ほう、太くて丈夫そうな、良い枝じゃな」
義興が木の枝を見て言う。
「おかえりなさい。じゃぁ、さっそく取り掛かるかね。天音、私達は家に帰って修理に取り掛かりますよ」
鈴子はそう言って腰を上げた。
「分かった。じゃー、またね邪馬斗。作業、頑張ってね!」
「おう、天音もな」
天音と鈴子は家に帰って、鈴の修復作業を始めた。
鈴の修復作業は、至ってシンプルであった。
ナギの木を元の鈴の柄と同じような形にナイフで削って、ヤスリを掛けながら加工していく。
新しい柄に鈴を取り付けて完成となる。
鈴とは異なり、一番修復作業が大変なのが笛だ。
笛は、木を空洞にして音色を奏でるために指で塞ぐ穴をキリで開けなければならない。
しかも穴を開ける時、少しの穴の大きさの違いでいい音が出るか出ないかが決まる。
この作業には邪馬斗も義興も、神経が削れるほど集中して作業に取り掛かった。
そして、二日間掛けて道具の修復を終えた天音と邪馬斗。
連休であったため、二人は集中して短時間で完成させることができた。
試しに、二人は神社で魂送りの舞をした。
鈴も以前と同じ重さで握り心地も変わらず、支障なく踊ることが出来ていた。
一方、邪馬斗もきちんとした音色で笛を奏でることが出来ていた。
「うん! バッチリだね!」
「そうだな! 上手く修復できたな!」
天音と邪馬斗は、できあがった道具の完成度に喜んだ。
「これからも大切に道具を使って継承していかなきゃいけないね」
「そうだな!」
そして、連休明けの登校日。
「2年B組の巫山天音さん、同じく巫川邪馬斗君。至急、生徒相談室に来てください」
天音と邪馬斗が登校して教室に入ると、猿田先生からの呼び出しの放送が聞こえた。
「お前ら、何したんだよ」
幹弥がからかうような口調で言った。
「この学校って、不純異性交遊ダメだったっけ?」
咲が考えるように言った。
「知らねーし! てか、不純異性交遊ってなんだよ! 俺ら、そんな関係じゃねえから!」
「そうよ、付き合ってないから! 誤解されるようなこと言わないでよ!」
天音と邪馬斗はそう言いながら、生徒指導室へと急いだ。
「なんだろう? 朝から呼び出しとか……」
「さぁ~?」
二人は呼び出しを受ける心当たりがなく、不思議に思いながら生徒指導室の戸をノックした。
「失礼します」
二人が生徒指導室に入ると、猿田先生が満面の笑顔で迎えた。
「先生! おはようございます!」
天音は元気よく挨拶した。
「何かありました?」
邪馬斗は冷静に聞いた。
「ん~とね~。今日出勤してきたら、何故か僕が結婚しているって言う噂が聞こえてね……。朝から先生方や生徒達から質問攻めをされてて、とても迷惑しているんだけど……。君達、心当たりないかな~?って思って~」
猿田先生が苦笑いしながら、天音と邪馬斗に聞いた。
「……え? し、知りませんよー」
天音は目を泳がせながら言う。
その様子に気づいた邪馬斗は、こいつが犯人かとひと目で悟った。
「そういやお前、通学時、ペラペラ喋ってただろ……」
邪馬斗が呟いた瞬間、ホームルームが始まるチャイムが鳴った。
「あ! チャイムが鳴った! 教室に戻らないと! 先生、失礼します!」
チャイムが聞こえた瞬間、天音は猛ダッシュで教室へと走って行った。
「おい! 待てって! 先生、すみません! 俺の方からちゃんと叱っておきますんで! 失礼します!」
邪馬斗はそう言って、走って出て行った天音を追いかけて行った。
生徒指導室に一人残されてしまった猿田先生。すると、女の人の声が聞こえた。
「……現世で奥さんできたのね」
猿田先生の背後に、羽織姿の女性が立っていた。
「ずっと見ていたんだから分かるだろ。居ないって!」
猿田先生は眼鏡を外して、目をこすりながら言った。
「ふ~ん」
「おいおい、君なら分かってるだろう? 勘弁してくれよ……。ずっと見てきただろ? そんな相手いないって知ってるはずだろ?」
猿田先生は汗をかきながら、羽織姿の女性に弁解を始める。
そんな猿田先生を、羽織姿の女性は面白そうにニコニコしながら、からかっていた。
苦笑いをしながら天音は邪馬斗を呼んで、猿田先生を背にし、コソコソしながら聞いた。
「ねー邪馬斗聞いた? なんで注連縄の奥に入れたのかしら?」
「俺も思った……。反対側にも張られているはずなのに」
「知りたいことあるけど、根掘り葉掘り聞くのも微妙だよね?」
「まーなー……。変に思われるのも嫌だしな」
「私、憧れの先生に変に思われるの嫌だ!」
「お前は元から変だから安心しろ」
「ああん? なんつった?」
「いや……ごめんなさい。まだすねの痛みが取れていないので……。これ以上は勘弁して下さい」
「あの~」
「はい!!!」
コソコソ話していた天音と邪馬斗は、猿田先生の呼ぶ声に驚いて振り返った。
「もう下山できたし、休憩したお陰で足もだいぶ良くなったから、もし良かったらその木の枝あげようか? なんか欲しそうな感じだし」
「良いんですか!?」
思わぬご厚意に、天音と邪馬斗は声を揃えて言った。
「いいよ~」
「ありがとうございます!」
「ただの木の枝なのに、そんなに喜んでもらえるとは、散歩した甲斐があったよ」
猿田先生は笑いながら言った。
そして、ふと表情を改めて、猿田先生が尋ねてくる。
「ところで、君達はデートかい?」
「何でですか!?」
天音と邪馬斗は眉間にシワを寄せながら言った。
「だって、ナギの木の葉って縁結びのご利益があるんだよ? だからデートかなー?って思ってさー。青春は良いね~」
「だから、違いますって!」
「こんな乙女心が無いやつとデートとかあり得ないでしょ」
「乙女心あるし! 私だって、あんたみたいなデリケートの無い男とはデートなんてごめんよ!」
天音と邪馬斗は必死になって訴えた。
「それよりも、先生こそ何で一人でわざわざ山に散歩とか……。別に山じゃなくたって散歩できるところなんて沢山あるじゃないですか」
天音が猿田先生に聞いた。
すると今までニコニコと笑っていた猿田先生が急に寂しそうな顔になる。
何かを見つめるように、山の方に視線を向ける。
「う~ん。それはね、妻との思い出の場所でもあるからだよ」
その声は、普段の気の抜けた優しい声ではなく、どこか寂しさを感じられる声であった。
聞いたことのない猿田先生の低い声に、天音と邪馬斗は驚きを隠せない。
天音は、ハッとしたように大声を出した。
「ていうか先生! 奥さん居たんですか!? 初めて聞いたんですけど!」
天音の驚く声に我に返った猿田先生は、焦りながら辿々しく弁解する。
「い、いや! 独身だよ~! 僕、育成ゲームにハマってるんだけど……。二次元の奥さんの話だよ!」
「三十代の男性が二次元のキャラクターに恋愛を……。先生、三次元でもいい奥さんが出来れば良いですね……」
邪馬斗は、ぽんぽんと猿田先生の肩を叩きながら慰める。
すると、天音が泣きそうな顔をしながら言う。
「先生、イケメンだから校内でファンの女子生徒がいっぱいいるんですよ! 奥さんがいるとか、みんなガッカリしますよ!」
猿田先生が誤解を解こうとするも聞く耳を持とうともせず、ただただ天音の妄想は膨らむ一方であった。
「だから、独身なんだってば~。信じてよ~」
猿田先生が必死で訴えていると、邪馬斗が腕時計を見ながら天音に声をかけた。
「おい、天音! そろそろ戻らないと! じいちゃん達が待ってるぞ!」
「あぁー! そうだった! 早く帰って取り掛からないと! 先生! 失礼します! 明後日学校でまた!」
「先生、失礼します! さようなら!」
天音と邪馬斗は猿田先生に挨拶をして、走って家に帰って行った。
「やれやれ……。さ、僕も帰ろうかな」
走っていく二人を見送り、猿田先生も神社を後にした。
邪馬斗の家に帰ってきた天音と邪馬斗は、居間でお茶を飲んでいた鈴子と義興のところに行く。
「ただいまー! ナギの木、手に入れてきたよー」
天音は、ナギの木の枝を見せながら言った。
「ほう、太くて丈夫そうな、良い枝じゃな」
義興が木の枝を見て言う。
「おかえりなさい。じゃぁ、さっそく取り掛かるかね。天音、私達は家に帰って修理に取り掛かりますよ」
鈴子はそう言って腰を上げた。
「分かった。じゃー、またね邪馬斗。作業、頑張ってね!」
「おう、天音もな」
天音と鈴子は家に帰って、鈴の修復作業を始めた。
鈴の修復作業は、至ってシンプルであった。
ナギの木を元の鈴の柄と同じような形にナイフで削って、ヤスリを掛けながら加工していく。
新しい柄に鈴を取り付けて完成となる。
鈴とは異なり、一番修復作業が大変なのが笛だ。
笛は、木を空洞にして音色を奏でるために指で塞ぐ穴をキリで開けなければならない。
しかも穴を開ける時、少しの穴の大きさの違いでいい音が出るか出ないかが決まる。
この作業には邪馬斗も義興も、神経が削れるほど集中して作業に取り掛かった。
そして、二日間掛けて道具の修復を終えた天音と邪馬斗。
連休であったため、二人は集中して短時間で完成させることができた。
試しに、二人は神社で魂送りの舞をした。
鈴も以前と同じ重さで握り心地も変わらず、支障なく踊ることが出来ていた。
一方、邪馬斗もきちんとした音色で笛を奏でることが出来ていた。
「うん! バッチリだね!」
「そうだな! 上手く修復できたな!」
天音と邪馬斗は、できあがった道具の完成度に喜んだ。
「これからも大切に道具を使って継承していかなきゃいけないね」
「そうだな!」
そして、連休明けの登校日。
「2年B組の巫山天音さん、同じく巫川邪馬斗君。至急、生徒相談室に来てください」
天音と邪馬斗が登校して教室に入ると、猿田先生からの呼び出しの放送が聞こえた。
「お前ら、何したんだよ」
幹弥がからかうような口調で言った。
「この学校って、不純異性交遊ダメだったっけ?」
咲が考えるように言った。
「知らねーし! てか、不純異性交遊ってなんだよ! 俺ら、そんな関係じゃねえから!」
「そうよ、付き合ってないから! 誤解されるようなこと言わないでよ!」
天音と邪馬斗はそう言いながら、生徒指導室へと急いだ。
「なんだろう? 朝から呼び出しとか……」
「さぁ~?」
二人は呼び出しを受ける心当たりがなく、不思議に思いながら生徒指導室の戸をノックした。
「失礼します」
二人が生徒指導室に入ると、猿田先生が満面の笑顔で迎えた。
「先生! おはようございます!」
天音は元気よく挨拶した。
「何かありました?」
邪馬斗は冷静に聞いた。
「ん~とね~。今日出勤してきたら、何故か僕が結婚しているって言う噂が聞こえてね……。朝から先生方や生徒達から質問攻めをされてて、とても迷惑しているんだけど……。君達、心当たりないかな~?って思って~」
猿田先生が苦笑いしながら、天音と邪馬斗に聞いた。
「……え? し、知りませんよー」
天音は目を泳がせながら言う。
その様子に気づいた邪馬斗は、こいつが犯人かとひと目で悟った。
「そういやお前、通学時、ペラペラ喋ってただろ……」
邪馬斗が呟いた瞬間、ホームルームが始まるチャイムが鳴った。
「あ! チャイムが鳴った! 教室に戻らないと! 先生、失礼します!」
チャイムが聞こえた瞬間、天音は猛ダッシュで教室へと走って行った。
「おい! 待てって! 先生、すみません! 俺の方からちゃんと叱っておきますんで! 失礼します!」
邪馬斗はそう言って、走って出て行った天音を追いかけて行った。
生徒指導室に一人残されてしまった猿田先生。すると、女の人の声が聞こえた。
「……現世で奥さんできたのね」
猿田先生の背後に、羽織姿の女性が立っていた。
「ずっと見ていたんだから分かるだろ。居ないって!」
猿田先生は眼鏡を外して、目をこすりながら言った。
「ふ~ん」
「おいおい、君なら分かってるだろう? 勘弁してくれよ……。ずっと見てきただろ? そんな相手いないって知ってるはずだろ?」
猿田先生は汗をかきながら、羽織姿の女性に弁解を始める。
そんな猿田先生を、羽織姿の女性は面白そうにニコニコしながら、からかっていた。