今日もこの世を彷徨っている霊を魂送りしている天音と邪馬斗。
 霊は日中も夜も関係なくいる。部活もない休日であったため、この日は朝から夕方にかけて魂送りに励んでいた。

「ふぅ……。これで何人目?」

 天音は額に溜まった汗を拭きながら邪馬斗に聞いた。

「えーっと、四人目かな?」
「もう夕方だし、今日はこの辺にして帰ろうか」
「だな。さっき送った霊も無事にあの世に行ったことだし」

 邪馬斗はそう言って笛をケースに入れようとした。
 すると、パキッと何かが割れるような音が聞こえる。
 邪馬斗が手元を見ると、笛が真っ二つに割れてしまっていた。

「え!? なんで!?」

 邪馬斗は、あまりの出来事にショックを受けていた。

「何で急に……」
「って、おい! 天音! 鈴!」

 天音が邪馬斗の折れた笛に気を取られていると、邪馬斗が天音が持っていた鈴を指差して叫んだ。

「え?」

 天音は自分が握っている鈴に目を向けた。その瞬間であった。
 カラーン……
 鈴の柄がポッキリと折れてしまい、折れた柄の下の部分が地面に落ちてしまった。

「なんで私のまで!?」
「なんか、ヒビはあるなって思ってたら……。てかどうすんだよ! これじゃあ、魂送りできねーし!」
「えー! もう少しで神鏡が元に戻りそうだったのに……。とにかく早く家に帰って、おばあちゃんに報告しなきゃ!」
「俺もじいちゃんに言わないと!」

 天音と邪馬斗は急いで家に帰った。

「とにかく、また集まってじいちゃん達と話し合いすることになると思うけど、取り敢えずまたな!」
「うん! またね!」

 天音と邪馬斗は急いで家の中に入った。

「おばあちゃーん! おばあちゃーん!!!」
「な~に、帰ってきたと思ったら大声なんて出して……」

 鈴子が台所にから呑気に歩いてきて姿を見せて言った。

「大変なことになっちゃったんだってばー!!!」
「何事?」
「これ見てよ~」

 天音は泣きながら、鈴子に真っ二つに柄の折れた鈴を見せた。

「ど~したの! 何をしたら折れちゃうの!?」
「魂送りしてたら急に折れちゃった~。どうしよ~。おばあちゃ~ん」
「どうしようって言われてもねぇ……。神楽の道具が壊れただなんて聞いたことないもの」
「嘘でしょ……。いつかは一回ぐらいは壊れて修理ぐらいしたことあるでしょ!?」
「いや……。無いはずよ。巫神楽が始まってからずっとこの鈴を使っていたと代々言われてるのよ」

 天音はポカーンと口を開けて固まってしまった。
「……そんなバカな」
「バカなのはあなたよ」

 振り絞ってやっと口に出した孫の言葉に、容赦ない一撃を食らわせる鈴子。

「バカなの私だけじゃないし! 邪馬斗だって笛折れちゃったんだもん!」
「なんですって!? それは大変なことになってしまったのかもしれない……。天音、巫川家に行くわよ!」
「なんで邪馬斗の笛が折れたことに関しては、そんなに心配すんのよ! 私のことも心配してよ!」
「邪馬斗君はあなたと違って落ち着いて行動できるし、大切な物はちゃんと管理できる子だと思っていますからね」
「理不尽な! 自分の孫のことぐらい信頼してよぉ~!」
「いつまでも泣き言言ってないで、さ、急いでお隣さんの所に行くわよ!」

 鈴子はそう言って、戸締まりをしっかりし、身支度をさっとして玄関へ急いだ。

「えぇ~。ちょっと待ってよぉ~、おばあちゃーん!」

 天音も鈴子の後を追うように急いで邪馬斗の家に向かった。

 ピーンポーンピーンポーンピンポンピンポンピンポン……。

「御免くださいませ。巫山です!」

 鈴子は邪馬斗の家に着くやいなや、インターンフォンを連打して言った。

「おばあちゃん……邪馬斗の家のインターンフォンまで壊れちゃうよ」

 天音は呆れながら言った。まもなくすると邪馬斗が玄関の戸を開けて出てきた。

「こんばんわ。さっきじいちゃんに言ったばかりで、呼びに行こうかと思っていたところだったよ。どうぞ」
「お邪魔します」

 邪馬斗に案内されながら家の中に入った。そして、座敷の方に通された。

「あれ? いつもは居間に通されるのに……」

 天音は不思議そうに言った。

「この前に整理した神社と神楽の書類を座敷に置いてるんだよ。今、じいちゃんが道具が折れてしまった原因と修理方法を調べてくれている」
「そうなんだ。ありがとう、巫川のおじいちゃん!」

 邪馬斗から話を聞いた天音は拝みながら言った。

「じいちゃん! 天音達が着たよ」
「おう。こんばんは」

 座敷に入ると義興があぐらをかきながら、古い書物を広げて読んでいたところであった。

「こんばんは。何かわかりましたか?」

 鈴子は義興の元に駆け寄りながら言った。

「あぁ。わかったよ。原因も修理方法も……。まず、天音ちゃん、邪馬斗。こっちに来て座りなさい」
「はい」

 言われるまま、天音と邪馬斗は義興の向かいに座った。
 義興は書物をなぞりながら、静かに呟く。

「とりあえず、道具は修理して治すことができるから安心しなさい」

 天音と邪馬斗は、安心して喜んだ。

「あぁ~、良かった~」

 気の抜けたように喜ぶ天音をよそに、邪馬斗は厳しそうな顔で言った。

「でも修理方法なんて分かるのか、じいちゃん。今まで一度も修理したことがなかったんだろ?」

 邪馬斗の話を聴き、天音は一気に喜びの顔から不安な顔になった。

「そうだよ……。そうだった! どうしたらいいの?」
「まぁ、落ち着きなさい。取り敢えず、道具が突然折れてしまった原因から述べよう」

 義興は焦る天音を落ち着かせながら言った。

「原因はずばり、魂送りの儀式のやり過ぎじゃ」
「え? やり過ぎって……。だってまだ神鏡の破片が集まりきっていないのよ! それで儀式のやり過ぎとか、あり得ないでしょ」

 天音は目と点にして言った。

「確かにまだ神鏡は元通りになっていない。しかし、今までの幾度となくやってきた魂送りは鈴と笛に負担がかかっていたということじゃ。なにせ、神鏡が割れてしまった事自体が前代未聞の出来事。年に一回例祭で使うだけだった道具が、短期間でこんなに使うこと自体負担が大きかったと言うことじゃ」
「確かに多い時で、一日に五回とか魂送りしてたもんな」

 邪馬斗は考えながら言った。

「そこで修理方法だが、書物に細かく書いているお陰でワシらでも修理することができそうじゃ」
「え!? ほんとう!? 良かったー!」

 天音は一気に晴れた表情になって言った。

「だがしかし、一つ問題がある」
「何だよ、じいちゃん」
「鈴と笛の材料はナギの木であるとこの書物に書いてある。したがって、神社の裏山にあるナギの木から枝を取ってきてほしいのじゃ。なるべく太い枝がほしいようじゃ」
「トキ子おばあちゃんの魂送りをしたところにあった大きいナギの木のこと? そんなのお安い御用じゃん! ね? 邪馬斗」
「そうだな」
「今日はもう遅いから、明日にでも取ってくるがよい」
「うん。分かった」

 こうして翌日、天音と邪馬斗は巫神社の裏山のナギの木へ行くことになったのであった。