次の日、ジャージ姿の天音は、巫神社前で邪馬斗と翔のことを待っていた。
少しすると、邪馬斗と翔が楽しそうに話しながらやってきた。
「あれ? 邪馬斗、翔さんと一緒に居たんだ」
「あー。待ち合わせだった巫神社の場所が分からないって言ってたから家に泊まってもらっていたんだよ。ついでに俺らのことも言っておいた。そしたら、翔さん自身のことも教えてくれたんだよ」
「そうだったんだ」
「いや~。なんで俺の姿が見えていたのか分かったよー。俺も次の人生のためにもいつまでもこの世に居座っているわけにもいかないからねー。よろしく頼むよ、お二人さん」
ニコニコしながら翔が言った。
「こちらこそ、ご指導お願いします」
天音は色々と諦めて、精一杯の笑顔で翔に言った。
「じゃー、軽くウォーミングアップでジョギングしようか」
「はーい」
三人は走り出した。
「邪馬斗君にも言ったんだけどさー。俺、プロのマラソン選手を目指してたんだよー。いろんな大会に出場していたんだ。だけど、大会に出場している最中に、突然目の前が真っ暗になってさ、倒れちゃったんだよ。そしたらそのまま死んじゃってさー。自信があった大会だったから、完走できなかったのが悔しくてさー! そう思っていたら、君達の学校の前に立ってて、校内を歩いていたらマラソン大会のチラシを見つけて……。大会に出て、もう一度走って、今度こそ完走しよう! そう思いながら練習していたら君達に会ったってわけ」
翔は堰を切ったような早口で話す。
「そういうことだったんですね。私、翔さんのことを見つけて、ずっと見ていたんですが、休まないで走り続けていましたよね? 疲れませんか?」
天音が翔に問いかけた。
「走ることが楽しくてさ。それに幽霊になってからあまり疲れを感じなくなったんだよねー。それで休まないでずっと走ってたんだ。こんなに走り続けられるなんて、幽霊も悪くはないよな」
「そ……そうですか……なるほど……ポジティブですね……はぁっ……はぁっ……」
話しているうちに、天音だけが遅れ始める
「あれ? 天音。まだウォーミングアップだぞ? もうへばったのか?」
先を行く邪馬斗が、振り向いて声を掛けた。
「ウォーミングアップって……走る距離長くない? どこまで走るのよ~」
更に距離を離され、天音は息切れをしながら言った。
「ちょっと、一休みするか」
翔は天音のことを気遣って言った。
ちょうど近くにあった、公園のベンチで休憩をとる。
「あぁー! しんどい!!!」
持ってきたスポーツドリンクを飲みながら、天音が叫ぶ。
「なんか、話に夢中になりすぎて結構な距離走っちゃったな。ごめんね」
翔が天音に話した。
「もう疲れました……」
「ほんと、お前スタミナ無いよな。よくそれで激しいダンス踊ったりしてるよな」
邪馬斗は呆れながら天音に言った。
「走るのとダンスじゃ全く違うし! もう、短距離なら得意なのになあ」
「はっはっは!」
天音と邪馬斗とのやり取りを見て、翔が大笑いする。
「翔さん、何がそんなにおかしいんですか!?」
天音が頬を膨らませた。
「ごめん、ごめん。仲が良いね、息も合ってそうだし。天音ちゃんは短距離ならいけるんだね。長距離のときは走り方が違うから、長距離用のフォームを教えるよ」
その後、天音と邪馬斗は、翔からフォームやマラソンの走り方を教えてもらった。
休みの日はもちろん、放課後も翔の熱血指導の元、天音と邪馬斗はマラソン大会に向けて特訓に励んだのであった。
そして、校内マラソン大会当日。天音と邪馬斗、幹弥、咲はマラソンのスタート地点に立っていた。
「あ~、とうとうこの日が~」
咲がソワソワしながら言った。
「そうだね。でも、私、今日楽しみかも」
「え? あんなに嫌がっていたのに!? 何があった! 裏切り者ー!」
「別に~」
ふふんと笑う天音の隣に、翔がやってきた。
「おはよう! マラソン日和って感じのいい天気だねー! たった一週間の練習でなかなかの上達ぶりだったよ。二人とも、今日は思いっきり楽しんで走ろう!」
暑苦しくも爽やかな翔に、天音と邪馬斗も満面の笑顔でうなずいた。
「位置について、よーい……スタート!」
スターターの合図で、全校生徒たちが勢いよく走り出した。
「おい、あいつら、速くね?」
「置いて行かないでよ~」
天音と邪馬斗が勢いよく走り出したことで、幹弥と咲との距離に大きな差を作っていた。
二人の前方を走る翔に、必死に食いついているのだ。
「二人ともいいペースだ。そう、腕はあまり振らず……」
翔は天音と邪馬斗の方を振り向きながら言った。
「本番となると、翔さん早いですね」
邪馬斗は言った。
「目標は完走することだけど、やっぱりさ、せっかく走るなら、一番になりたいじゃん!」
翔はそう言って、ぐんぐんと天音と邪馬斗との差を大きく広げ始めた。
「私、もうついていけない……無理ぃ……」
先にペースダウンしたのは天音だった。
「俺も……もう……ついていけない」
まもなく、邪馬斗も翔についていくことが出来なくなる。
「一位はもらったぁー!」
翔は次々と他の生徒達をも追い越していく。
走ることを心から楽しんでいる、最高の笑顔だった。
そして、堂々の一着でゴールを果たしたのであった。
「やったー! どんなもんだい! やっぱ、走るって気持ちいいなぁ~」
翔は天を仰ぎながら言った。
「ん?」
大きく深呼吸をしていると翔は何か気配を感じた。
強いオーラを感じさせる男性が目が入る。
翔が目を細めて見ると、男性の横に女の霊が居るのに気がついた。
「なんだ、あの二人は……」
一方、天音はようやくゴール地点に近づいてきていた。
「はぁ……はぁ……やっとついたぁ~」
天音はヘロヘロになりながら、やっとゴール地点にたどり着いた。
「おつかれ」
一足早くゴールしていた邪馬斗が、天音にタオルを持ってきた。
「サンキュー。ふぅ……翔さんは?」
「ん? あそこに居るよ」
そう言って、邪馬斗は翔を指さした。
清々しい顔で喜んでガッツポーズをしている翔は、二人の元に駆け寄ってきて言う。
「いや~。完走おめでとー! ビリじゃなかったね!」
「翔さんの特訓のお陰ですよ。去年よりも早くゴールできたかも」
「俺も自己ベスト更新できました」
「それは良かった! 俺も一位でゴール出来て良かったよ!」
「さすがですね……」
天音と邪馬斗は、口を揃えて言った。
「まだまだ戻ってきていない生徒も多いし……。マラソン大会が終わる前に魂送りしようか」
「そうだね……。とりあえず、人気のいない所に移動しよう」
三人は体育館裏に移動した。
「じゃー、始めますね」
「うん。天音ちゃん、邪馬斗君。ありがとうね」
天音と邪馬斗は魂送りを始めた。
『彷徨える御霊よ、安らかに眠りたまえ。幽世へ行き来世の幸を祈ろうぞ』
天音が神唄を歌った瞬間、翔が思い出したように口を開いた。
「そう言えばゴールした時、学校の先生みたいな男の人が俺のことをじっと見ていたんだよね。なんか俺のことが見えているような感じがしたんだけど……。あと、その男の人の隣に羽織姿の女の人が居た。その人俺と一緒で霊だった。あの二人からすごいオーラを感じた。もしかしてこの学校には、天音ちゃん達と同じく、霊が見える人が居るのかもね……。最後に目一杯走れて楽しかったよ。ありがとう!」
「……え? その人って……どんな人でした!?」
天音が急いで聞くも、翔は光に包まれて消えてしまう。
「天音……翔さんが言ってたこと聞こえたか?」
「うん。霊と一緒にいる先生って誰だろう?」
「てか、霊の気配も、そのすごいオーラも何も感じなかったぞ」
「私も……。もしかして、意図的に気配を消せる人なのかな?」
「そうだとしたら……。天音、警戒しなきゃいけないかもな。味方なのか、敵なのか分からないし」
「そうだね……。おばあちゃん達にも報告したほうが良いかも。何か分かっていることあるかもしれないし」
「そうだな……」
翔からの思わぬ情報に、天音と邪馬斗は動揺しながらも、気を引き締めた。
少しすると、邪馬斗と翔が楽しそうに話しながらやってきた。
「あれ? 邪馬斗、翔さんと一緒に居たんだ」
「あー。待ち合わせだった巫神社の場所が分からないって言ってたから家に泊まってもらっていたんだよ。ついでに俺らのことも言っておいた。そしたら、翔さん自身のことも教えてくれたんだよ」
「そうだったんだ」
「いや~。なんで俺の姿が見えていたのか分かったよー。俺も次の人生のためにもいつまでもこの世に居座っているわけにもいかないからねー。よろしく頼むよ、お二人さん」
ニコニコしながら翔が言った。
「こちらこそ、ご指導お願いします」
天音は色々と諦めて、精一杯の笑顔で翔に言った。
「じゃー、軽くウォーミングアップでジョギングしようか」
「はーい」
三人は走り出した。
「邪馬斗君にも言ったんだけどさー。俺、プロのマラソン選手を目指してたんだよー。いろんな大会に出場していたんだ。だけど、大会に出場している最中に、突然目の前が真っ暗になってさ、倒れちゃったんだよ。そしたらそのまま死んじゃってさー。自信があった大会だったから、完走できなかったのが悔しくてさー! そう思っていたら、君達の学校の前に立ってて、校内を歩いていたらマラソン大会のチラシを見つけて……。大会に出て、もう一度走って、今度こそ完走しよう! そう思いながら練習していたら君達に会ったってわけ」
翔は堰を切ったような早口で話す。
「そういうことだったんですね。私、翔さんのことを見つけて、ずっと見ていたんですが、休まないで走り続けていましたよね? 疲れませんか?」
天音が翔に問いかけた。
「走ることが楽しくてさ。それに幽霊になってからあまり疲れを感じなくなったんだよねー。それで休まないでずっと走ってたんだ。こんなに走り続けられるなんて、幽霊も悪くはないよな」
「そ……そうですか……なるほど……ポジティブですね……はぁっ……はぁっ……」
話しているうちに、天音だけが遅れ始める
「あれ? 天音。まだウォーミングアップだぞ? もうへばったのか?」
先を行く邪馬斗が、振り向いて声を掛けた。
「ウォーミングアップって……走る距離長くない? どこまで走るのよ~」
更に距離を離され、天音は息切れをしながら言った。
「ちょっと、一休みするか」
翔は天音のことを気遣って言った。
ちょうど近くにあった、公園のベンチで休憩をとる。
「あぁー! しんどい!!!」
持ってきたスポーツドリンクを飲みながら、天音が叫ぶ。
「なんか、話に夢中になりすぎて結構な距離走っちゃったな。ごめんね」
翔が天音に話した。
「もう疲れました……」
「ほんと、お前スタミナ無いよな。よくそれで激しいダンス踊ったりしてるよな」
邪馬斗は呆れながら天音に言った。
「走るのとダンスじゃ全く違うし! もう、短距離なら得意なのになあ」
「はっはっは!」
天音と邪馬斗とのやり取りを見て、翔が大笑いする。
「翔さん、何がそんなにおかしいんですか!?」
天音が頬を膨らませた。
「ごめん、ごめん。仲が良いね、息も合ってそうだし。天音ちゃんは短距離ならいけるんだね。長距離のときは走り方が違うから、長距離用のフォームを教えるよ」
その後、天音と邪馬斗は、翔からフォームやマラソンの走り方を教えてもらった。
休みの日はもちろん、放課後も翔の熱血指導の元、天音と邪馬斗はマラソン大会に向けて特訓に励んだのであった。
そして、校内マラソン大会当日。天音と邪馬斗、幹弥、咲はマラソンのスタート地点に立っていた。
「あ~、とうとうこの日が~」
咲がソワソワしながら言った。
「そうだね。でも、私、今日楽しみかも」
「え? あんなに嫌がっていたのに!? 何があった! 裏切り者ー!」
「別に~」
ふふんと笑う天音の隣に、翔がやってきた。
「おはよう! マラソン日和って感じのいい天気だねー! たった一週間の練習でなかなかの上達ぶりだったよ。二人とも、今日は思いっきり楽しんで走ろう!」
暑苦しくも爽やかな翔に、天音と邪馬斗も満面の笑顔でうなずいた。
「位置について、よーい……スタート!」
スターターの合図で、全校生徒たちが勢いよく走り出した。
「おい、あいつら、速くね?」
「置いて行かないでよ~」
天音と邪馬斗が勢いよく走り出したことで、幹弥と咲との距離に大きな差を作っていた。
二人の前方を走る翔に、必死に食いついているのだ。
「二人ともいいペースだ。そう、腕はあまり振らず……」
翔は天音と邪馬斗の方を振り向きながら言った。
「本番となると、翔さん早いですね」
邪馬斗は言った。
「目標は完走することだけど、やっぱりさ、せっかく走るなら、一番になりたいじゃん!」
翔はそう言って、ぐんぐんと天音と邪馬斗との差を大きく広げ始めた。
「私、もうついていけない……無理ぃ……」
先にペースダウンしたのは天音だった。
「俺も……もう……ついていけない」
まもなく、邪馬斗も翔についていくことが出来なくなる。
「一位はもらったぁー!」
翔は次々と他の生徒達をも追い越していく。
走ることを心から楽しんでいる、最高の笑顔だった。
そして、堂々の一着でゴールを果たしたのであった。
「やったー! どんなもんだい! やっぱ、走るって気持ちいいなぁ~」
翔は天を仰ぎながら言った。
「ん?」
大きく深呼吸をしていると翔は何か気配を感じた。
強いオーラを感じさせる男性が目が入る。
翔が目を細めて見ると、男性の横に女の霊が居るのに気がついた。
「なんだ、あの二人は……」
一方、天音はようやくゴール地点に近づいてきていた。
「はぁ……はぁ……やっとついたぁ~」
天音はヘロヘロになりながら、やっとゴール地点にたどり着いた。
「おつかれ」
一足早くゴールしていた邪馬斗が、天音にタオルを持ってきた。
「サンキュー。ふぅ……翔さんは?」
「ん? あそこに居るよ」
そう言って、邪馬斗は翔を指さした。
清々しい顔で喜んでガッツポーズをしている翔は、二人の元に駆け寄ってきて言う。
「いや~。完走おめでとー! ビリじゃなかったね!」
「翔さんの特訓のお陰ですよ。去年よりも早くゴールできたかも」
「俺も自己ベスト更新できました」
「それは良かった! 俺も一位でゴール出来て良かったよ!」
「さすがですね……」
天音と邪馬斗は、口を揃えて言った。
「まだまだ戻ってきていない生徒も多いし……。マラソン大会が終わる前に魂送りしようか」
「そうだね……。とりあえず、人気のいない所に移動しよう」
三人は体育館裏に移動した。
「じゃー、始めますね」
「うん。天音ちゃん、邪馬斗君。ありがとうね」
天音と邪馬斗は魂送りを始めた。
『彷徨える御霊よ、安らかに眠りたまえ。幽世へ行き来世の幸を祈ろうぞ』
天音が神唄を歌った瞬間、翔が思い出したように口を開いた。
「そう言えばゴールした時、学校の先生みたいな男の人が俺のことをじっと見ていたんだよね。なんか俺のことが見えているような感じがしたんだけど……。あと、その男の人の隣に羽織姿の女の人が居た。その人俺と一緒で霊だった。あの二人からすごいオーラを感じた。もしかしてこの学校には、天音ちゃん達と同じく、霊が見える人が居るのかもね……。最後に目一杯走れて楽しかったよ。ありがとう!」
「……え? その人って……どんな人でした!?」
天音が急いで聞くも、翔は光に包まれて消えてしまう。
「天音……翔さんが言ってたこと聞こえたか?」
「うん。霊と一緒にいる先生って誰だろう?」
「てか、霊の気配も、そのすごいオーラも何も感じなかったぞ」
「私も……。もしかして、意図的に気配を消せる人なのかな?」
「そうだとしたら……。天音、警戒しなきゃいけないかもな。味方なのか、敵なのか分からないし」
「そうだね……。おばあちゃん達にも報告したほうが良いかも。何か分かっていることあるかもしれないし」
「そうだな……」
翔からの思わぬ情報に、天音と邪馬斗は動揺しながらも、気を引き締めた。