今日の矢にはいつもよりも強い術をかけてある。
蟲を蹴散らす力は何十倍もあるはずなのだ。
なのにこれだなんて、手強い。
さすがA級だ。
こんな相手をふたりで協力もせず、祓えるんだろうか。

「ううん、弱気にならない!」

祓わなければとんでもない事態になるのだ。
きっと、大勢人が死ぬ。
それは避けなければ。

今度は穢れ本体に肉薄するビルの外階段を駆け上がる。

「今度、こそ……」

限界まで弦を引き絞り、矢を放つ。

――おおぉぉぉーん!

効果があったのか穢れが僅かに呻き、ばーっと一斉に矢が当たった付近の蟲が散った。

「この、まま……」

続けざまに二射、三射と矢を放つ。
蟲が大きく抉れ、僅かに核が見えてきた。
伶龍も気づいたのか、核に向かって走り出している。

「あとすこ、しっ……」

さらに矢を打とうと弓につがえる。

――その、瞬間。

――うおおぉぉぉん!

穢れが大きく呻く。
それは感情などないはずなのに怒りや恨みを感じた。
高く持ち上がった足が、私に向かって振り下ろされてくるのが見えた。
弓をかまえたまま固まり、その行方を見つめる。

「……え?」

「翠!」