私がお父さんと呼ぶたび、困ったように笑っていた彼を思い出す。
そのくせ彼は、私を実の娘のごとくというよりも、実の娘として愛しんでくれた。

そういえば幼い頃、彼は父親ではないと言われるたびに、じゃあお父さんは誰なのかと聞いたが、はぐらかすばかりで答えはもらえなかった。
大きくなるにつれてこれは聞いてはいけない話なのだと悟り、口にしなくなったので今でも私の父親は謎のままだ。
父親だけじゃない、祖父も、曾祖父というものも私には存在していなかった。
祖母がいて母がいて私がいるのだから、それらが存在しなければなり立たないのはわかっている。
離縁した、婚外子だったとしてもちらりとくらい話題に出そうだが、一切そういう話は誰からも耳にしていない。
これは私の、長年の謎だった。



そうこうしているうちに翌日、大晦日になった。

「決まったのかい」

「うっ」

朝の挨拶より先に私の顔を見た途端、祖母が言ってくる。

「お、お昼までには……」

きょときょととせわしなく視線を泳がせながら、椅子を引いて食卓に着く。

「早く決めておくれよ。
準備があるんだからね」

「う、うん」