伶龍はおかしそうに笑っているが、あれだって刀の戦闘用に特化した、特殊なものなのだ。
見た目こそ黒のトレンチコートだが、動きやすいようにストレッチの効いた素材になっている。

「まあ、翠にくっついてたら寒くないからな」

「えっ、ちょっと!」

ぎゅうぎゅう伶龍がくっついてきて笑ってしまう。
でも、笑い終わると急に、真顔になった。

「……いよいよ、だね」

「そうだな」

人ひとり、野良猫すらいない街はしんと静まりかえっている。
仮設司令所のまわりだけが煌々と明るく、人々が忙しく働いていた。

ふたりでじっと、真っ暗な夜空を見上げる。
雲に覆われているのか、星はひとつも見えない。
まるでこれからの未来を暗示しているかのようで、心の中にまで雲が立ちこめてきた。

「俺が絶対に翠を守る。
だから安心していい」

「……うん」

不意に、もう何度目かの台詞を伶龍が口にする。
それに甘えるように肩をぶつけた。
彼がそう言ってくれるだけで酷く安心でき、雲が晴れていった。

「あ、雪だ」

そのうち、空からちらちらと白いものが舞い落ちてくる。
今年初めての雪が、降り出していた。