伶龍が唇を尖らせて恨みがましく祖母を見る。
それに祖母ははぁーっとため息を落とした。

「気持ちはわかるけど。
私らがわたわた慌ててたら、まわりは不安になるだろ。
どーんとかまえておきな」

苦笑いし、祖母は威宗から差し出されたお茶を受け取った。

「……そう、だね」

私も椅子に座り直し、置いてある羊羹の封を切る。
周囲の人間は大穢れの出現にかなりぴりついていた。
なのに巫女である私たちが狼狽えていれば、祖母が言うとおり不安になるだろう。

「でもばあちゃん、怖くないの?」

伶龍のおかげで落ち着いているとはいえ、それでも恐怖はやはり拭えない。

「怖かないさ。
……といったら、嘘になるねぇ」

よく見れば、お茶を飲む祖母の手は震えていた。
曾祖母もやはり。

「でもそんなことは言ってられないよ。
わかるだろ」

「うん」

頷く祖母に頷き返す。
通常の穢れでも祓えなければ小型台風並みの被害は出る。
大穢れとなれば地方がひとつなくなるほどの被害になるのだ。
怖じ気づいている場合ではない。