それは奇妙な光景だったと思います。
 夢の世界で、妖と人間が閑談して過ごしているのです。

 喜三郎様はまるで学友を相手にするように、私と言葉を交わしました。

 実は私は人間なのではないかと錯覚してしまうほど、喜三郎様の語りは心地よく耳朶(じだ)に響きます。
 会話の内容はもちろんのこと、声の質や調子がどれも一級品なのでしょう。

 倫太郎様が喜三郎様を「天性の人たらし」と喩えた理由がわかった頃には、すでに夜明けの時間でした。

 「僕ばかり喋ってしまったね。明日は君のことも、もっと教えてくれないだろうか」

 「……考えておきます」
 
 私はそう答えましたが、自分の意思とは関係なく、勝手に言葉が口から漏れたような感覚でした。

 そうは自覚しつつも、すぐに否定をしなかったのは、その言葉が実は本心だったせいでしょうか。

 情けないことにその時はよくわかりませんでした。
 なぜわからないのかすら、わからなかったのです。