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 ということがあり、次の休日。
 俺は駒場と駅付近の本屋に足を運んでいた。

 階に上がった途端にする新書の香り。
 プラスチックのような固めの香りに少し黄色がついているような独特な香りだ。

「この匂い好きなんだよな」
「わかる~、なんか落ち着くよね」

 駒場とひっそりと話しながら、小説の棚に向かう。
 中学生の頃はライトノベル目当てに通っていたが、その頃も久しい。

 本棚にはラベルがいくつか出ている。
 ホラーだったり、エッセイだったり、ミステリーだったり。

 最近は映像化をされることが増えたためか、それ専用の棚もある。
 意味深な表紙が並ぶなか、気になったタイトルを手に取ってみることにした。

 タイトル、目次……とパラパラとめくる。
 シュリンクが当たり前になってしまったいまでは、試し読みできる本屋は珍しい。

「って、この名前……」

 目次をぱらっと見た時に、見覚えのある名前があることに気付く。
 ────駒場夕梨。

 その文字と、駒場の顔を確認するよう交互に見比べる。

「うん、私」
「私て……。書いてたら言ってくれよ」

 やりたいことリストの話をしたとき、駒場は本を出したいのが夢だと言っていた。
 もう出てるじゃないか……という目を向けながら言うと、あのねえとひといきついて

「文章書いてない人が人の文章に興味あるって言うと思う? にっぶいな~君は」

 と言った。
 その顔は、本当に気付いてなかったの?1ミリも?という顔をしている。

「鈍くて悪かったな」

 鈍さは自分でもわかっている。
 というより、そこまで深く考えるように元々が設計されていないのだ。

 考えているようで考えてない。
 目の前の出来事をずっとぐるぐる回してるだけだ。

 目をそらすように駒場の文章を読んでみる。
 ……同年代とは思えない。というのが率直な感想だった。

 あまり純文学を読まない自分でも、すらすらと情景が浮かんでくる地の文。
 軽快な会話でページがするすると進む。気付けば、時間を忘れて1冊が終わっていそうだ。

 このくらい書けたら、楽しいだろうな。

「駒場は、何で書いてるんだ?」

 ありきたりな質問のつもりだった。
 夢を語る人間に、なんで?を聞いたくらいの軽い気持ち。

「あれ? 言ってなかったっけ。私にもあるんだよ、君の言うタイムリミットってやつ」

「へ?」
「ここじゃなんだし、ファミレスでもいこっか。お腹すいたでしょ?」