「ありがとう、鈴木くん。私、少し前向けた気がする」


腕を前にまわすと背伸びをせずには息が出来ない。

小さな一歩は私には二倍の距離がある。

逃げてばかりの私がいざ勇気を出してみると、興奮してはやる気持ちに満ちていた。

そんな私を彼は慈しむように見つめていた。


「よかった。本当に……」

「鈴木くん?」


パッと手を捕まれ、彼が振り返り覆うように抱きしめてくる。


「いっ!? いたいいたいっ!」

「武藤さん大好きだ!」


駄々洩れの愛情に押しつぶされる。

きっと彼の脳内は私をぺしゃんこにするほどの強烈な欲に溢れているだろう。


「鈴木くんのばかぁ……」

「へへっ。このままだと本当に抱き潰して抑えられなくなるからこれだけ許して?」


チュッとリップ音をたて、額に唇をおとされる。

甘ったるい接し方に照れてしまい、私はキャパオーバーになって爆発する。

それをクスクスと笑って見下ろす彼にはまだまだ余裕がありそうだ。

彼の癖が強い愛情はそうとうなブレーキがかけられているのだから。


「それじゃ、オレ戻るね。おやすみ」

「おや、すみ……」


キスをされた額に触れ、その場にしゃがみこむ。

彼の愛情は過剰だが、それに胸を高鳴らせる自分もたいがい感覚がずれている。


(あーあ、もう。バカだなぁ、私も鈴木くんが好きになっちゃった)


乗り越えなきゃいけないことはまだたくさんある。

人と比べれば一歩を踏み出すのが遅いかもしれないが、その分言葉にして伝える努力はしていこう。

未来へと歩くその隣に、彼はそばにいてくれるだろうか?

いや、彼を繋ぎとめられるくらいかわいい彼女でありたい。

自立して、なんの枷もなく、彼のとなりにいる未来がほしいと欲を抱くのだった。


ーーーーーーー


それから無事に修学旅行を終え、私たちはまた日常生活を送っていた。

莉央と杏梨とは距離が縮まり、よく一緒に過ごすようになった。

杏梨はクラスの中心人物だったということもあり、その流れで私はまわりに話しかけられることも増えた。

まだ器用に言葉を返すことは出来ないけれど、根気強くいこうと気持ちを入れ替えていた。


「武藤さん、一緒にかーえろ!」

「うん」


彼とのお付き合いも順調で、放課後は彼の趣味に付き合うことが多い。